2021 Fiscal Year Research-status Report
History of mentalities on 'over-foreignization': transformation of the meaning of 'otherness' in Switzerland
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21K18337
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Research Institution | Nagasaki University |
Principal Investigator |
葉柳 和則 長崎大学, 多文化社会学部, 教授 (70332856)
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Project Period (FY) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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Keywords | よそ者過剰 / 心性史 / スイス / 移民 / 外国人労働者 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、「よそもの過剰」Ueberfremdungという言葉の意味内容の変遷を指標として、20世紀以降のドイツ語圏、特にスイスにおける他者排除の心性を明らかにすることである。この言葉の時間的、および空間的意味変容は、欧州で「よそもの」と位置づけられる対象が時代に応じて、および国ごとにどう変化したかを表している。 当該年度は、Ueberfremdung関係の文献を収集するとともに、本研究の着想に資するところのあった、スイスの作家・知識人マックス・フリッシュの"Ueberfremdung I" (1965)および"Ueberfremdung II" (1966)を精密に読み解くことに着手した。フリッシュは、スイスにおいて1960年代に社会問題化していたイタリア人労働者の「過剰」をめぐる言説の批判的検討を通して、この言葉の意味の重層性と政治的含意を明らかにしている。彼の議論は、ヨーロッパ先進国で共通して問題となる外国人労働者問題・移民問題のみならず、ナチスによるユダヤ人迫害問題、さらには19世紀末の反ユダヤ主義までも射程に収めている。その意味で、2つのテクストを精密に分析することは、今後の本研究の土台作りという意味を持つ。 具体的には、日本独文学会西日本支部学会において、「労働力を呼びよせたのに、やってくるのは人間だ: マックス・フリッシュにおける「異他的なもの」の排除」というタイトルで口頭発表を行った。学内の研究会においても、より広い専門分野の研究者を想定した口頭発表を行った。これと並行して、2つのテクストを日本語に翻訳し、詳細な注と解説を付ける作業を行った。翻訳と解説は一通りできあがっているが、省略法と体言止めの多いフリッシュのテクストを、一般の読者にも理解可能な日本語へとブラッシュアップする作業は現在進行中である。今年度中に出版社と契約し、来年度の刊行を目指す。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の予定では19世紀末から20世紀前半にかけてのメディアテクスト----それらの大部分はデジタル化されておらず、当然、日本から閲覧することはできない----を収集するために、ドイツとスイスの図書館やアーカイブで現地調査を実施するはずであった。しかし、コロナウイルス問題が収束しなかったため、勤務先から海外出張の許可を得ることができず、現地調査は断念するよりほかなかった。 しかし、既刊の書籍に関しては、ドイツ語圏より取り寄せることが可能であり、先行研究に関しては綿密な検討が可能となった。 マックス・フリッシュの"Ueberfremdung I" (1965)および"Ueberfremdung II" (1966)の翻訳・解説については、とりあえず一通り訳文と解説を最後まで作成したことで、一定の進捗を見た。翻訳に着手した時点ですでに、ドイツ語としてはさほど難解ではないが、文体の特徴ゆえに、わかりやすい日本語に訳すのは時間を要するテクストであることは明らかとなっていたので、拙速を尊ぶのではなく、今年度時間をかけて訳文をブラッシュアップした上で世に問うべきである。 学会発表に関しては、当初よりプロジェクトの1年目は1回を予定していたので、これについては計画通りである。さらに学内の研究会でも発表したことを考えれば、口頭発表に関しては十分な進捗を見せている。 以上を総合的に判断するなら、ドイツ語圏での現地調査を実施することができなかったことのマイナスに鑑みて「やや遅れている」と判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
ドイツやスイスは日本に先行して外国人の入国の緩和を始めており、ワクチン3回接種の証明書があれば、現時点では問題なく入国が認められる。既に、ドイツ国立図書館、スイス国立図書館、スイス政府アーカイブ、チューリヒ市アーカイブ、マックス・フリッシュ・アーカイブと連絡を取り、入国が認められれば、資料の閲覧は可能であるとの返答を得ている。したがって、勤務先においても海外出張の許可が得られれば、今年度の9月にドイツとスイスで資料調査を実施する予定である。今年度の現地調査では、Ueberfremdungという言葉が作られた19世紀末のドイツ語圏の新聞・雑誌に焦点を当て、テクストの複写を行い、それを帰国後デジタル化することで、テキストマイニングによる分析を実施するための基礎作業とする。 【現在までの進捗状況】で触れた、フリッシュの"Ueberfremdung I" (1965)および"Ueberfremdung II" (1966)の翻訳・解説については、現在の草稿を修正した上で、出版社と交渉を始める。テクストのテーマに鑑みて、明石書店を第1候補としているが、既に研究代表者の著書を出版した実績のある、鳥影社、春風社にも打診し、再来年度中に確実に出版できるよう準備を進める。 学会発表については、すでに日本国際文化学会の全国大会(2022年7月・神戸大学)において「自由論題」の枠で「フィリップ・エッターと異他的なもの」について報告を行うことが決定している。さらに今年度の日本独文学会西日本支部学会においても、「マックス・フリッシュとスイスの難民問題」についての発表を行う予定である。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた最大の理由は、コロナウイルス問題のため、シェンゲン協定加盟国外から加盟国への入国が著しく制限された上に、勤務先が海外出張を原則禁止していたためである。そのため、ドイツやスイスでの資料収集のための図書館・アーカイブ調査ができなかったことである。交付決定額の内訳自体が旅費に比重を置いていたため、この結果は避けがたいものであった。 これについては今年度、当初の予定よりも長めの調査を実施することで、予算の計画執行に務める。 次年度使用額が生じたもうひとつの理由は、当該年度に実施した研究のうち、最も大きな時エフォートを割いた"Ueberfremdung I" (1965)および"Ueberfremdung II" (1966)については、すでに所有していたためである。そのため、解説を書くための関連図書の購入以外は、このテクストの翻訳に関して支出が必要なかった。今年度からは新規の書籍購入が増えるため、このような事態は生じない。 もうひとつの理由は、研究代表者が現在遂行している、他の3つの科学研究費プロジェクト(代表1、分担2)において購入した文献と重複する文献の購入を避けた結果である。これは研究費の無駄を避けるために必要であった。研究が進展すれば、テーマの重複は生じなくなる見込みである。
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Research Products
(4 results)