2021 Fiscal Year Research-status Report
Chemical composition analysis of locally made/used ceramics by neutron activation analysis to establish a high-resolution approach to the study of history of local economic development
Project/Area Number |
21K18379
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
冨井 眞 京都大学, 文学研究科, 助教 (00293845)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
木立 雅朗 立命館大学, 文学部, 教授 (40278487)
高宮 幸一 京都大学, 複合原子力科学研究所, 准教授 (70324712)
吉井 秀夫 京都大学, 文学研究科, 教授 (90252410)
千葉 豊 京都大学, 文学研究科, 准教授 (00197625)
伊藤 淳史 京都大学, 文学研究科, 助教 (70252400)
|
Project Period (FY) |
2021-07-09 – 2024-03-31
|
Keywords | 中性子放射化分析 / 胎土 / 瓦 / 刻印 / 土佐 / 窯業生産 / 幕末 / 微量元素 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、前近代の土師器や瓦など低火度焼成の土器類の元素組成比に基づく胎土分析に中性子放射化分析(=NAA)を適用し、分析結果と考古学的知見との照合によって、①低火度焼成の土器類に対する胎土分類法を確立する、②在地消費型窯業生産品の生産体制の多様性や均質性を解明する、③その流通状況を復元する、という3点である。これらの目的達成に向けて研究実施計画に掲げた取り組みでは、本年度は目的①を最優先して、以下の作業を実施した。 (1)ウィーン工科大学の研究所(CLIP)と京都大学の研究所(KURNS)でのNAAの対照的分析:幕末の土佐藩白川邸の堀から出土した、製作工房の単位を示唆する刻印を有する桟瓦を対象資料とした。KURNSでは3種の刻印グループから成る16個体18点、CLIPではそれら全てを含む30個体32点(刻印グループは5種)を分析した。半減期の短い5元素では、個別元素に着目すると、胎土グループの分類を可能にする元素もあって、その元素内での濃度の傾向は、両機関で矛盾しない。 (2)胎土グループの抽出と、技術グループの抽出に向けた出土遺物の再検討:CLIPでは28元素の濃度を基に多変量解析を行った結果、5つの胎土グループを抽出でき、いずれも刻印グループに合致した。KURNSでは2元素の濃度を基に3つの胎土グループを抽出でき、いずれも刻印グループに合致した。以上から、生産現場の独立性がうかがえる。その一方、刻印瓦の製作技術の検討では、現状で、斉一性の高さがうかがえる。 (3)出土記録の検討による廃棄単位の確認:発掘記録からは、消費グループを示すような廃棄単位を見いだせず、一括廃棄という報告書所見の客観性を支持した。 このほか、幕末~明治の土佐の文献資料を参照して瓦生産体制に関する記録を収集し、また京都市内の近代の窯跡を見学して窯業生産品の在庫管理などに関する知見を得た。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の方法的基礎となる目的①の達成を最優先することにして、消費様態としては在地的と言える、京都所在の土佐藩邸で用いられた刻印瓦を検討対象とした。生産から消費までの来歴を捉えやすい資料をターゲットにしたことが奏効し、順調に進展している。 (1)低火度焼成の土器類に対する胎土分類法の確立:CLIPとKURNSでNAAの対照的分析を実施した。同一個体から採取した試料において、半減期の短い核種では複数の元素に対してそれぞれ試料のグループ化を試み、いずれの元素でも分類結果が両機関で整合的だったので、NAAによって最終的な胎土グループを決定するための基礎固めが進んだ。 (2)在地消費型窯業生産品の生産体制の多様性や均質性の解明:NAAによる胎土グループの抽出と、製作技術的検討による技術グループの抽出に取り組んだ。NAAの分析対象資料では、CLIPの分析結果に基づき瓦の胎土グループを5つ抽出でき、それぞれのグループは刻印グループに合致したので、製作技術的検討は当該の5種の刻印グループを優先的に実施した。そのうち3種の刻印グループでは全刻印瓦で検討を終え、現状では、胎土の多様性と製作技術の均質性を予見できた。 (3)在地消費型窯業生産品の流通状況の復元:藩邸の堀から刻印瓦が出土した際の図面や写真等を調査して、廃棄単位の有無を確認した。特定の刻印グループが分布的に偏るような傾向を見出せず、一括出土したという発掘報告書の評価を支持できた。
|
Strategy for Future Research Activity |
目的②・③の達成には方法的基盤として目的①の達成が必須なので、分析方法の確立を積極的に推進するために、進捗が順調で好結果も出てきた土佐藩邸の瓦のNAA分析および考古学的検討に比重を置く。この方策により、目的①・②の達成を早めることが期待できるので、藩邸瓦よりは生産から消費までの多様性が予見される土師器に対しても、分析・検討をより入念に行えるようになる。目的①~③の達成に向けての研究推進方策は、以下の通りである。 (1)低火度焼成の土器類に対する胎土分類法の確立:CLIPとKURNSでのNAAの対照的分析では、藩邸瓦の分析対象を種別や刻印グループの異なる一群に展開して、低火度焼成品に対するNAAの有効性・信頼性のさらなる向上を図る。KURNSでは、半減期の短い核種の解析の蓄積と、半減期の長い核種の解析の安定性向上に努める。 (2)在地消費型窯業生産品の生産体制の多様性や均質性の解明:藩邸瓦の胎土グループのさらなる確認を進める。また、胎土グループと生産地域の地質条件との関係性を検討するために、生産地の巡検を、感染症対策に留意して実施する。技術グループの検討では、出土した刻印瓦全体に対する製作技術的検討を進める。 (3) 在地消費型窯業生産品の流通状況の復元:京都盆地東北部で豊富に検出されている土師器類の一括出土事例に対して、写真や図面類などの出土記録を精査してどの個体がどのように出土したかをうかがえる遺構を吟味し、廃棄単位を確認する。また、その中からNAA分析および製作技術的検討の対象とする土師器の個体資料を確定する。
|
Causes of Carryover |
物品費については、NAAのマシンタイムの配当時期が年度の下半期だったことに加え、初年度ではNAAによる分析方法の確立にまでは至らなかったために、分析に伴う物品等の確定に至らなかったことによる。旅費については、新型コロナウィルス対策により、研究打合せをオンライン開催にせざるを得なかったことと、実地踏査も控えざるを得なかったことによる。人件費については、データ整理期間中には、新型コロナの影響もあって作業補助人員を確保できなかったことによる。その他については、海外での分析の解析結果報告が2021年度内では分析費を確定し得なかったためで、これは次年度に執行することになる。 2022年度においては、2021年度の研究実績を踏まえ、より良い研究成果を速やかに得るために作業推進方策を部分的に変更して、目的①・②の達成を優先するので、分析数を増やす予定である。それに伴い、分析費およびデータ整理に関わる費用が大きくなる。また、分析資料の検討に要する巡検の対象地には、遠方の高知県も加える予定なので、国内旅費も大きくなる。
|
Research Products
(2 results)