2022 Fiscal Year Research-status Report
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21K18575
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
植田 一石 東京大学, 大学院数理科学研究科, 准教授 (60432465)
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Project Period (FY) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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Keywords | ホモロジー的ミラー対称性 / 楕円種数 |
Outline of Annual Research Achievements |
Imperial College LondonのYanki Lekili氏と行っているホモロジー的ミラー対称性の研究を継続した。これまでの研究で、Liouville領域の巻深谷圏をコンパクトなLagrange部分多様体のなす部分圏で局所化して得られる圏に安定深谷圏という名前を付けて積極的に研究することを提唱し、滑らかな射影多様体Xから滑らかな因子Dを取り除いて得られる補空間Uに対し、Dの余法束に付随する球面束がUからDへの平衡Lagrange対応を与え、その誘導するUの安定深谷圏からDの深谷圏への関手が、Dの深谷圏の直和成分への同値を与えるかという問題を定式化したが、この問題に関連して、Uの安定深谷圏が、Uの巻深谷圏をXにおけるFloer方程式の解の数え上げで得られるシンプレクティックコホモロジーの特別な元について局所化して得られるという予想を定式化した。 また、Xが射影空間の指数1のFano超曲面で、Dがその超平面切断の時、我々がこれまでの研究で定式化したUのLandau-Ginzburg模型としてのミラーとCalabi-Yau/Landau-Ginzburg対応を組み合わせることにより、Uのミラーとなる対数的Calabi-Yau軌道体を構成し、その上のLandau-Ginzburg模型としてXのミラーを定式化した。さらに、Uの巡回群による商として射影空間から滑らかな反標準因子を取り除いて得られる対数的Calabi-Yau多様体が得られることに注目し、それに対するミラーも定式化した。 さらに、特任研究員として雇用した橋本健治氏と共同で、D4特異点を4つ持つ2次のK3曲面のモジュライ空間を決定し、それに付随する保型形式環の生成元と関係式を求めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度には、「研究実績の概要」に記載した進捗に加えて、研究代表者の指導する大学院生の研究にも以下に挙げるような様々な進捗があった。それらは本研究課題とあるものは密接に、またあるものは間接的に関わっており、上記の進捗と併せると、本研究課題はおおむね順調に進展していると評価される。 まず、奥田伸樹氏によって複素トーラスの非可換変形が定義され、変形のパラメーターが1の冪根に値を取る場合に双対トーラスのgerbe的変形との導来同値が示された。これは非可換複素幾何における新しい結果であるが、その証明は群の圏への作用に基づいており、主張以上に、証明の手法が重要である。実際、トーラスの作用の存在は可積分系の可能な定義の一つであるが、奥田氏の研究は、導来圏へのトーラスの作用の非可換代数幾何学への応用の例を与えている。 次に、小林健太氏によって、導来同値であることが強く期待されるが微分同相ではないCalabi-Yau多様体の組に対して2変数楕円種数が計算され、それらが一致することが証明された。2変数楕円種数は同境環MSUからJacobi形式のなす環への準同型であり、2次元の共形場理論や弦理論と深い関係がある。双有理同値で不変なChern数の集合は2変数楕円種数の係数の集合に一致することが知られており、双有理同値なCalabi-Yau多様体は導来同値であると期待されているので、導来同値なCalabi-Yau多様体の2変数楕円種数は等しいかというのは自然な問題であるが、小林氏の結果はこの問題に対する自明でない肯定的な例を与える。 また、荒井勇人氏によって、代数多様体の族のファイバーに台を持つ球状対象がファイバーの連接層の導来圏に半球状捻りと呼ばれる自己同値を引き起こす事が示された。さらに、前原健吾氏によって、第一種トロピカル小平曲面に対するTorelliの定理が示された。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度に「今後の研究の推進方策」として挙げた課題はどれも2022年度中には満足の行く形では完成しなかったので、これらの課題に引き続き取り組む。特に、安定深谷圏の概念は、2017年頃から行ってきた研究代表者とLekili氏の研究に由来しているが、2022年12月にGanatra-Gao-Venkateshによって、深谷圏がKoszul双対性を持つようなLiouville領域に対しては、安定深谷圏がRabinowitz深谷圏と呼ばれる別の圏と同値になることを示すレプリントがarXivで公表された。また、2022年9月にBae-Jeong-Kimによって、樹状グラフに沿った球面の余接束のplumbingによって得られるLiouville領域の安定深谷圏がクラスター圏を与える事を示すプレプリントがarXivで公表された。そこに明記されているように、これは研究代表者らによって得られていた結果の一般化になっている。このように安定深谷圏は研究代表者ら以外にも複数のグループによって研究されるようになり、単にそれ自身として興味深いだけでなく、他の様々な分野と関わる重要な対象であることがますます明らかになってきたので、これに関する研究を継続したい。 また、2変数楕円種数の研究は、多様体上の力学系を代数的トポロジーの道具を使って調べる研究の類似を非可換代数多様体に対して行う事を動機の一つにしているが、この文脈で、一般の非可換代数多様体に対する2変数楕円種数の定義が自然に問題になるので、この問題にも取り組みたい。 この他にも、6本の直線で分岐する射影空間の二重被覆として得られるK3曲面に対するホモロジー的ミラー対称性(この場合のミラーは可換な代数多様体にはならないことが予期される)やその高次元化など、興味深い話題は数多くあるので、共同研究者や大学院生と協力して研究を推進していきたい。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルス感染症の影響で出張を殆ど行わなかったために次年度使用額が生じた。研究代表者や研究協力者の旅費の他に、研究員の雇用のための人件費としても使用する計画である。
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Research Products
(7 results)