Outline of Annual Research Achievements |
我々は理想化された連続媒体と天然の岩石物質の差異が高速度天体衝突時の衝撃波伝播過程に与える影響を定量化するべく研究を実施している. 天然岩石は粒子群で構成され, 内部に粒界と空隙を含む点が理想均質連続媒体とは異なる. そのような検討のさなか, 粉体を用いて最適な条件で衝突実験を行うと衝突直下点の物質がおわんのような形状で残され回収できることが明らかとなってきた. 2022年度は宇宙科学研究所 超高速衝突実験施設に設置された縦型二段式水素ガス銃を用い, 長石砂, 大理石砂を用いた高速度衝突実験を実施した(黒澤, 佐藤, 新原, 富岡). 2022年度の実験で, 長石は衝突点近傍の試料が「おわん形状組織」として「凍結」されることがわかっていた. 新たに導入した大理石砂は方解石の粒子から構成されている. 方解石は代表的な水質変成によって生じる鉱物であり, 炭素質隕石やリュウグウの試料にも含まれていることがわかっていることから新たに試料に用いることとした. 綺麗な結晶状態を持つ試料を安価に入手可能なため, 衝突前後の変化を読み取り易いことも利点である. これらの砂に消磁した磁鉄鉱粉末を混ぜこみ, 人工磁場中で実験を実施した. 回収した試料の一部は薄片に加工し, 偏光顕微鏡で観察し, 残りは樹脂で固化させた上で短冊形状に加工し, 東京大学の超電導磁力計で分析した. その結果, (1)長石砂と同様に大理石砂でもおわん形状組織を回収可能であること, (2)回収した試料は衝突点からの距離に応じて, 損傷を受けていること, (3)混入した磁鉄鉱粉末が衝突点からの距離に応じた熱残留磁化を獲得していること, が明らかになった. (2)と(3)は, 回収試料から粒界, 空隙を含む砂試料中を伝播する衝撃波の素性, すなわち衝撃波面前後の運動量, エネルギーの分配過程を復元可能であることを示唆する.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2021年度におわん形状組織の回収に成功していた長石砂の実験前試料を薄片に加工し観察したところ, 実験前から結晶中に損傷を多く含んでおり, 実験前後の変化を捉えることは難しいことが明らかになった. そのため実験前の損傷が少ない試料として大理石砂を新たに選定した. そのため試料が経験した応力, 圧力の評価は計画よりも遅れている. しかしながら, 申請時からの目標であった磁性鉱物の熱残留磁化を用いた不透明試料中の温度分布の復元手順を確立した. この点で「やや遅れている」と判断した.
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度は大理石砂を中心に研究を進める予定である. 衝突実験を新たに実施し, 試料数を増やし, 電子顕微鏡を用いた回収試料の詳細観察も行っていく. 熱残留磁化から求める温度と合わせ, 試料中の温度, 圧力分布を復元する. また衝撃物理の観点から複雑媒体中を伝播する衝撃波の様相を明らかにする.
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Causes of Carryover |
分析機器(XRD, RINT-250V)が2022年末に故障した. 修理を試みたが, 部品調達のめどが立たず, 2022年度内の使用が不可の状態となっていた. 2022年度内で本実験にかかわる経費の支出ができなかったので2023年度の分析経費に充当することとした. 2023年度には学内に設置された代替機種(Smart Lab)での実験および分析を行う方針で準備を進めている.
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