2021 Fiscal Year Research-status Report
鉄によるエピゲノム制御 -母体の鉄量変動は胎仔のエピゲノムを変えるのか?-
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21K19221
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
立花 誠 大阪大学, 生命機能研究科, 教授 (80303915)
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Project Period (FY) |
2021-07-09 – 2023-03-31
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Keywords | エピゲノム / 鉄 / 脱メチル化 |
Outline of Annual Research Achievements |
DNAやヒストンの脱メチル化を触媒する酵素反応(酸化反応)には、酸化能力を有している二価鉄(Fe2+)が必須である。近年私たちは、マウスの胚性幹細胞を使った実験で、DNAのメチル化レベルとヒストンのメチル化レベルが培地中の鉄量に依存して変動することを見出した。この現象は、DNAの脱メチル化に関わるTetファミリー分子、およびヒストン脱メチル化酵素であるJmjCドメインファミリー分子の酵素活性が、培地に含まれる鉄量によって律速されることを意味する。この実験結果は、鉄の不足や過剰な状態が、生体内においても細胞のエピゲノムを変えうることを想起させた。胎仔(児)期におきる性決定やゲノムインプリントの消去には、上記のエピゲノム酵素群が深く関与する。このような知見に基づき、妊娠期の母体の鉄の代謝変動が胎仔エピゲノムに及ぼす影響を、マウスモデルで検証する。 2021年度には、鉄過剰症に対して一般的に処方されてる鉄キレート剤の効果について検証した。XYマウス胎仔の未分化生殖腺を摘出し、上記キレート剤の存在下で器官培養を行った。その結果、キレート剤を培地に添加することによって生殖腺体細胞のヒストンH3の9番目のリジンのメチル化が亢進していることが確認された。さらに2日間培養し、オス体細胞マーカーのSOX9とメス体細胞マーカーのFOXL2に対する抗体で二重染色を行った。その結果、鉄キレート剤の添加により、オス化した体細胞が減少するとともに、メス化した体細胞が著しく増加ていることが明らかになった。本研究成果は、細胞レベルでのみならず、器官のレベルでも、鉄の代謝がヒストンのメチル化エピゲノムに重要であることを示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
胚発生期におきる性決定やゲノムインプリントの消去には、鉄要求性のDNA・ヒストン脱メチル化酵素群が密接に関与する。このため、妊娠期の鉄の過不足は胎仔(児)の成育に重大な影響を及ぼす可能性があった。このような知見に基づき、母体の鉄欠乏が胎仔エピゲノムに及ぼす影響について、マウスモデルで検証することが本研究の目的である。上記の研究概要で記載したように、マウスの生殖腺の性分化には鉄の代謝が極めて重要であることが2021年度に得た研究成果によって明らかになった。このため、本研究課題は当初の計画通りに順調に進捗していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度に行った胎仔期マウスの生殖腺の器官培養実験により、マウスの生殖腺の性分化には鉄の代謝が極めて重要であることが明らかになった。2022年度は、この結果について、子宮内で成長しているマウス胎仔にも当てはまるのかどうかについて検証する。一過的な鉄欠乏状態マウスは、2細胞期胚を移植した母親マウスに、鉄キレート剤を腹腔内投与することによって作出する。鉄キレート剤の投与量は、ヒトの鉄過剰症患者へ投与する量に準じる。鉄キレート剤を投与した胎生14日の胎仔から生殖腺を摘出し、オス細胞のマーカーであるSox9とメス細胞マーカーであるFoxl2に対する抗体で二重染色を行う。この際に、XY胎仔の生殖腺にFoxl2陽性細胞が出現するかどうかに着目する。
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Causes of Carryover |
2021年度の研究が予想よりも順調に進展したため、上記の次年度使用額が生じた。この費用は、「エピゲノム制御における鉄代謝の役割について、マウスの個体レベルで検証する」との2022年度の研究課題にて使用する。
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[Journal Article] Dynamic erectile responses of a novel penile organ model utilizing two photon excitation microscopy (TPEM)†2021
Author(s)
Daiki Hashimoto, Tsuyoshi Hirashima, Hisao Yamamura, Tomoya Kataoka, Kota Fujimoto, Taiju Hyuga, Atsushi Yoshiki, Kazunori Kimura, Shunsuke Kuroki, Makoto Tachibana, Kentaro Suzuki, Nobuhiko Yamamoto, Shin Morioka, Takehiko Sasaki, Gen Yamada
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Journal Title
Biology of Reproduction
Volume: 104
Pages: 875, 886
DOI
Peer Reviewed
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[Journal Article] Meiosis-specific ZFP541 repressor complex promotes developmental progression of meiotic prophase towards completion during mouse spermatogenesis.2021
Author(s)
Yuki Takada, Chisato Kodera, Kazumasa takemoto, Akihiko Sakashita, Kenichi Horisawa, Ryo Maeda, Ryuki Shimada, Shingo Usuki, Sayoko Fujimura, Naoki Tani, Kumi Matsuura, Tomohiko Akiyama, Atsushi Suzuki, Hitoshi Niwa, Makoto Tachibana, Takeshi Ohba, Hidetaka Katabuchi, Satoshi Namekawa, kimi Araki, Kei-Ichiro Ishiguro
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Journal Title
Nature Communications
Volume: 12
Pages: e3184
DOI
Peer Reviewed / Open Access / Int'l Joint Research
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[Journal Article] Generation of ovarian follicles from mouse pluripotent stem cells2021
Author(s)
Takeshi Yoshino, Takahiro Suzuki, Go Nagamatsu, Haruka Yabukami, Mika Ikegaya, Mami Kishima, Haruka Kita, Takuya Imamura, Kinichi Nakashima, Ryuichi Nishinakamura, Makoto Tachibana, Miki Inoue, Yuichi Shima, Ken-Ichirou Morohashi, Katsuhiko Hayashi
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Journal Title
Science
Volume: 373
Pages: 282, 289
DOI
Peer Reviewed / Open Access
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