2021 Fiscal Year Research-status Report
炎症によるがん転移促進の核心を担う制御性単球の機能
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21K19387
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Research Institution | Tokyo University of Pharmacy and Life Science |
Principal Investigator |
田中 正人 東京薬科大学, 生命科学部, 教授 (00294059)
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Project Period (FY) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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Keywords | 単球 / がん / 転移 / 炎症 |
Outline of Annual Research Achievements |
がん転移が成立するためには、転移先の臓器に前転移ニッチと呼ばれる、がん細胞が生着しやすい環境が整うことが必要である。本研究では、この前転移ニッチ形成におけるYm1+Ly6C+制御性単球の関与を明らかにすることで、炎症に伴うがん転移促進機構を明らかにすることを目指している。2021年度、本研究では、がんの進展や治療における制御性単球の動態をYm1発現細胞可視化マウスを用いて解析したところ、がん原発巣に対する外科治療や放射線治療に伴う炎症によって、制御性単球の増加がみられ、これが肺における前転移ニッチ形成に寄与していることを明らかにした。また、制御性単球によるがん転移促進の分子機構を明らかにする目的で、肺に浸潤する制御性単球との遺伝子発現を解析したところ、転移関連遺伝子として報告されているマトリックスメタロプロテアーゼ9(MMP-9)およびリポカリン2(LCN2)の発現が高いことがわかった。阻害剤あるいは欠損マウスの解析により、制御性単球由来MMP-9およびLCN2が肺転移の促進に必須であり、がん進展抑制の有力な治療標的であることが明らかになった。一方で、この制御性単球の肺への浸潤の分子機構を探索したところ、この単球にはケモカインレセプターの一つであるCXCR4が高発現していることを見出した。さらに、阻害剤によるCXCR4分子の機能阻害により、制御性単球の肺への浸潤が抑制されること、ならびに炎症に伴う前転移ニッチ形成が有意に抑制されることを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、炎症の回復期に骨髄で産生される制御性単球のがん前転移ニッチ形成における役割をあきらかにすることで、“なぜ炎症ががん転移を促進するのか”という、がん研究の根本的な問題に挑戦する研究課題である。2021年度の研究により、がん治療に伴う炎症によって形成される前転移ニッチにこの制御性単球が関与していることを証明し、さらに、同細胞の機能分子の制御によって、前転移ニッチ形成をコントロールできることを見出した。2022年以降の研究により、さらに本細胞による前転移ニッチ形成のメカニズムが明らかになれば、当初の目的を達成できると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も引き続き、以下の3点の解析を進める。 1)がん前転移ニッチ形成におけるYm1+Ly6C+制御性単球の動態の解明:Ym1-Venusマウスに加えて、Ym1-Cre-Tomatoマウスを用いて、原発巣形成、炎症誘導、前転移ニッチ形成、がん転移巣の増殖のそれぞれの過程におけるYm1+Ly6C+制御性単球の動態を解析する。今後は、がん原発巣に対する外科治療や放射線治療以外の治療法における同細胞の動体解析を進める。 2)Ym1+Ly6C+制御性単球によるがん前転移ニッチ形成促進の分子機構の解明:がん原発巣に対する各種治療後に局所に浸潤する制御性単球の遺伝子発現を解析することで、原発巣の再増殖に寄与する機能分子の同定並びに機能解析を行う。 3)Ym1+Ly6C+制御性単球の骨髄における分化機構の解明:骨髄におけるYm1+Ly6C+制御性単球の分化経路を解析し、これを制御することにより前転移ニッチ形成阻害ができるかどうか、検討する。
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Causes of Carryover |
遺伝子改変マウスの作製のスケジュールが若干遅れ、このマウスを用いた解析を次年度に行うことが必要になったため。
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Research Products
(8 results)