2021 Fiscal Year Research-status Report
縦隔間葉系の器官発生及び疾患発症における意義の解明
Project/Area Number |
21K19519
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
栗原 裕基 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 教授 (20221947)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
和田 洋一郎 東京大学, アイソトープ総合センター, 教授 (10322033)
富田 幸子 ヤマザキ動物看護大学, 動物看護学部, 教授 (40231451)
中島 淳 東京大学, 医学部附属病院, 教授 (90188954)
|
Project Period (FY) |
2021-07-09 – 2023-03-31
|
Keywords | 縦隔 / 神経堤細胞 / マクロファージ / 心臓大血管 / 単一細胞解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、縦隔間葉の主要な起源である神経堤細胞と胎生期にこの領域に多く分布するマクロファージを中心に、縦隔間葉系の構成細胞の起源と分化系譜を明らかにするとともに、発生過程における細胞間相互作用の推移を解析し、器官形成の場としての役割を解明する。さらに、ヒト縦隔腫瘍検体の遺伝子発現プロファイルと比較し、特に原発巣不明の腫瘍を中心にその細胞起源の推定を試み、縦隔間葉系の疾患発症母体としての臨床的意義を明らかにすることを目標としている。本年度は主に、神経堤細胞とマクロファージの単一細胞マルチオーム解析、心大血管および縦隔領域の空間的トランスクリプトーム解析、鳥類胚を用いた神経堤除去実験を行い、以下の結果を得た。①心臓内神経堤細胞は骨軟骨前駆細胞様の段階を経て、血管平滑筋と非平滑筋間質細胞に分かれ、それぞれが多様なサブセットに分化する。②神経堤由来細胞のうち、半月弁間質細胞や大動脈周囲の間質細胞にCsf1などのマクロファージ誘導因子を産生する細胞群が存在し、同領域で神経堤細胞とマクロファージの共局在が認められる。③Csf1r-Creマウスを用いた胎生期縦隔マクロファージの単一細胞解析ではいくつかのサブセットの存在が示唆される。④神経堤除去後のウズラ胚では大動脈周囲におけるマクロファージ分布の変化とともに、リンパ管走行の異常をきたす。これらの結果により、心大血管を含む縦隔領域における神経堤細胞とマクロファージの系譜マッピングと細胞間相互作用の解析を進め、縦隔領域における器官形成と病態形成に関与する器官外環境を明らかにする上で基盤となる知見を得ることができた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では、①縦隔間葉系を構成する細胞の系譜マッピング、②縦隔間葉系における細胞間相互作用の解析、③ヒト縦隔腫瘍の細胞起源解析への応用、の3項目を掲げたが、このうち①が最もよく進み、特にWnt1-Cre;Rosa26-EYFPマウスを用いた神経堤細胞の単一細胞解析では、多様なサブセットへの分化と関与する転写因子ネットワーク、神経堤の主要な派生細胞である骨軟骨細胞との比較による心臓神経堤特有の遺伝子ネットワークの抽出が進み、現在論文投稿準備中である。特に、神経堤由来細胞のうち、半月弁間質細胞や大動脈周囲の間質細胞にCsf1などのマクロファージ誘導因子を産生する細胞群が存在し、同領域で神経堤細胞とマクロファージの共局在が認められること、さらには心内膜細胞から心臓マクロファージが発生分化するという最近の知見から(Shigena et al. Dev Cell 2019)、神経堤細胞と造血系の間の新しいクロストークの存在が期待される。また、Csf1r-Creマウスを用いた胎生期縦隔マクロファージの単一細胞解析においても、特徴的な表面マーカーによって定義できるいくつかのサブセットが判明し、現在異なる発生段階のマクロファージサブセットの解析を進めることで、その分化系譜を明らかにしつつある。②の細胞間相互作用では、空間トランスクリプトーム解析と上記単一細胞解析の対応により、リガンド-受容体共局在の抽出アルゴリズムを作成し、現在解析中である。一方、神経堤除去後のウズラ胚では大動脈周囲におけるマクロファージ分布の変化とともに、リンパ管走行の異常が認められた。さらに、心臓大血管及び咽頭領域のリンパ管が咽頭中胚葉(二次心臓領域を含む)由来であることを三重大学との共同研究で見出しており、縦隔内の細胞連携の多様性について新しい知見が得られている。
|
Strategy for Future Research Activity |
①縦隔間葉系を構成する細胞の系譜マッピング:現在の解析をさらに進め、咽頭弓中胚葉や胸腺細胞、血管/リンパ管内皮細胞など多様な非標識細胞群のscRNAseqデータを合わせてクラスタリング解析を行って包括的な細胞系譜マップを作成し、10X Visiumデータにアノテーションした位置情報をもとに細胞群間相互作用の存在を推定する。 ②縦隔間葉系における細胞間相互作用の解析:マウス胚、鳥類胚や神経堤細胞株O9-1とCsf1r-Cre;Rosa26-EYFPマウス胚からFACSソーティングした縦隔内マクロファージとの共培養などを用いて、多様な細胞分化を制御する細胞間シグナルと転写因子ネットワークを明らかにしていく。さらに、鳥類胚の神経堤除去モデルにおいて、神経堤由来の縦隔間葉系細胞が直接あるいは他の細胞との相互作用を介して何らかの役割を果たしているかを、ウズラ胚における神経堤除去後の縦隔間葉構成細胞の分布や相互の位置関係、シグナル下流分子動態による活性化評価などにより解析する。 ③ヒト縦隔腫瘍の細胞起源解析への応用:縦隔腫瘍の手術検体からcDNAを調整し、高速シークエンサーにより発現遺伝子のプロファイリングを行う。①の単一細胞解析や10X Visium解析の結果から、その起源細胞や相互作用する細胞群の推定を試みる。
|
Causes of Carryover |
令和4年1月10日以降、新型コロナウイルスの拡大による動物実験への影響などから、予定していた単一細胞解析に用いるための妊娠マウスが十分得られなかった。研究遂行上、動物実験を行うことでデータ解析等を行うことが不可欠なため、動物実験を延期して、マウスを一世代分(約3ヶ月)繁殖した後で実施することとした。このため、単一細胞解析に必要な予算を次年度に繰り越す必要が生じた。
|
Research Products
(21 results)
-
-
[Journal Article] Murine neonatal ketogenesis preserves mitochondrial energetics by preventing protein hyperacetylation2021
Author(s)
Arima Yuichiro,Nakagawa Yoshiko,Takeo Toru,Ishida Toshifumi,Yamada Toshihiro,Hino Shinjiro,Nakao Mitsuyoshi,Hanada Sanshiro,Umemoto Terumasa,Suda Toshio,Sakuma Tetsushi,Yamamoto Takashi,Watanabe Takehisa,Nagaoka Katsuya,Tanaka Yasuhito,Kawamura Yumiko K.,Tonami Kazuo,Kurihara Hiroki
-
Journal Title
Nature Metabolism
Volume: 3
Pages: 196~210
DOI
Peer Reviewed
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
[Presentation] 単一細胞・空間遺伝子発現解析よる心臓内神経堤細胞の分化運命決定2021
Author(s)
Akiyasu Iwase, Yasunobu Uchijima, Daiki Seya , Mayuko Kida, Hiroki Higashiyama, Kazuhiro Matsui, Akashi Taguchi, Shogo Yamamoto, Shiro Fukuda, Seitaro Nomura, Takahide Kohro, Chisa Shukunami, Masahide Seki, Yutaka Suzuki, Youichiro Wada, Hiroyuki Aburatani, Yukiko Kurihara, Sachiko Miyagawa-Tomita, Hiroki Kurihara
Organizer
第44回日本分子生物学会
-