2021 Fiscal Year Research-status Report
免疫一細胞データ解析による改変型T細胞受容体デザイン技術の開発
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21K19939
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Research Institution | Aichi Cancer Center Research Institute |
Principal Investigator |
山口 類 愛知県がんセンター(研究所), システム解析学分野, 分野長 (90380675)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
松下 博和 愛知県がんセンター(研究所), 腫瘍免疫制御TR分野, 分野長 (80597782)
岡村 文子 (出町文子) 愛知県がんセンター(研究所), 腫瘍免疫制御TR分野, 主任研究員 (10546948)
吉田 亮 統計数理研究所, データ科学研究系, 教授 (70401263)
太田 元規 名古屋大学, 情報学研究科, 教授 (40290895)
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Project Period (FY) |
2021-07-09 – 2023-03-31
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Keywords | 一細胞計測 / 免疫細胞受容体 / タンパク質デザイン |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、近年がん免疫治療において開発が進むT細胞受容体(TCR)遺伝子改変T細胞輸注療法(TCR-T療法)の個別化の実現に向けて、最先端の「データ科学技術」と「免疫一細胞シークエンス計測技術」の統合により、膨大な組み合わせ多様性を持つ改変型TCRと抗原ペプチド・HLA複合体(pHLA)間の結合において、結合強度を増強・制御した「改変型TCRタンパク配列を高精度かつ高効率にデザインする手法」の開発を目指すことである。本研究では、次の要素技術を統合した新規手法の開発を進めている。それは、免疫一細胞RNA計測技術に基づくハイスループットTCRシークエンスおよび遺伝子発現データ解析による実験的結合能評価、ベイズ最適化技術に基づくTCR配列-pHLA結合能 確率的ランドスケープ推定による次期探索TCR配列候補提案、深層ニューラルネットワーク(DNN)学習技術に基づく数値的結合能予測および確率的TCR配列候補群生成、である。これまでの研究の経過は以下のようになっている。本年度は、前述のDNN学習技術に基づく数値的結合能予測について、既報の数値的結合能予測技術のサーベイを行い、複数の手法の性能の評価を行った。予測モデルの構造に関する知見を得るとともに、特に、予測精度の向上のために必要な訓練用データセットの性質についても知見を得た。また新規配列探索アルゴリズムの開発も進め、性能評価を行った。提案手法では、超広大な配列候補空間を、高速かつ偏りなく探索することで、多様な高親和性配列の生成を目指している。またTCRおよびpHLAの結合能を評価する実験系の立ち上げを行い、がん患者のサンプルから、がん抗原を認識するT細胞のTCR配列を取得し、実験的な結合能の測定を進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、下記の三つの要素技術を統合した、新規手法の開発を進めている。1. 免疫一細胞RNA計測技術に基づくハイスループットTCRシークエンスおよび遺伝子発現データ解析による実験的結合能評価。2. ベイズ最適化技術に基づくTCR配列 vs pHLA結合能 確率的ランドスケープ推定による次期探索TCR配列候補提案。3. 深層ニューラルネットワーク(DNN)学習技術に基づく数値的結合能予測および確率的TCR配列候補群生成。これまでの研究の経過は以下のようになっている。まず、上記3.のDNN学習技術に基づく数値的結合能予測について、既報の数値的結合能予測技術のサーベイを行い、複数の性能の評価を行った。予測モデルの構造に関する知見を得るとともに、特に、予測精度の向上のために必要な訓練用データセットの性質についても知見を得た。次に、3.の確率的TCR配列候補群生成および2.の次期探索TCR配列候補提案に関連して、遺伝的アルゴリズムおよび逐次的モンテカルロサンプリングに基づく生成モデルの構築手法を考案した。提案手法では、超広大な配列候補空間を、高速かつ偏りなく探索することが可能であり、多様な高親和性配列の生成を目指している。また、1.の実験的結合能の評価に関して、本年度は、TCRおよびpHLAの結合能を評価する実験系の立ち上げを行い、肺がん患者のサンプルから、がん抗原を認識するT細胞のTCR配列を取得し、同TCR配列の一部をランダムに改変した配列を作成し、実験的な結合能の測定を進めた。以上のように概ね順調に進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの経過に基づき、次年度は以下のように進める予定である。まず、TCR-pHLAの結合能予測モデルに関しては、昨年度までに、既存のDNNに基づくモデルが必ずしも十分な精度を持たないということが分かってきた。その原因としては、DNNモデルの構造の不十分さもあるが、何より学習データの不足および偏りがあげられる。そこで、本研究では免疫一細胞RNA計測に基づくTCR-pHLAの結合能とTCR配列が紐づいたデータの作成を進める。その際に、どのような種類のデータを取得すべきかは、昨年度までに得られたDNNモデルの性能を向上させるために必要な情報に関する知見を活用する。また既存のDNNに基づく結合能予測モデルははTCR-pHLAタンパク質複合体の立体構造を陽には学習していない。本研究では、タンパク質の立体構造情報を取り込んだ結合能予測モデルの活用も進める予定である。立体構造の情報に関しては、テンプレートモデリングおよびAlphaFold等による立体構造予測技術の活用を検討する。そして以上の計測データ、結合能予測モデルおよび昨年度に開発した生成モデル構成技術を組み合わせて、高親和性TCR候補配列を広大な探索空間から予測・生成し、ウェットの実験による検証を行い、技術の改良を進める予定である。
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Causes of Carryover |
本年度は、コロナの影響で出張を行うことができなかったために、旅費を使用することができなかった。来年度は、コロナの影響を鑑みながら、学会等に参加する旅費として使用予定である。また、その他の支出において、GPUを多数搭載した計算機システムの使用料を見越していたが、本年度開発したアルゴリズムは、様々な方式を検討した結果、GPUによる計算を多用するものではなかった。次年度は、深層学習モデルベースのタンパク質立体構造予測モデル等で、GPUを利用した計算を多用するため、次年度請求分と合わせて活用する予定である。
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