2021 Fiscal Year Research-status Report
Psychological and Linguistic Analysis of Moral Judgement based on Hume's Moral Philosophy and Contemporary Metaethics
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21K19942
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
相松 慎也 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 助教 (50908829)
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Project Period (FY) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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Keywords | ヒューム / メタ倫理学 / 道徳判断 / 感情 / 言語 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、道徳判断――人のふるまいに関する善悪・是非の判断――の本性と実態を解明するべく、その心理面と言語面に着目し、「私たちが道徳判断を下す際、いかなる心理から、いかなる意味の言葉を発しているのか」という問いに答えようとするものである。そのために、まず、道徳判断を「共感」によって分析した18世紀スコットランドの哲学者デイヴィッド・ヒュームの道徳哲学を再解釈し、次に、現代の英米圏で展開されているメタ倫理学による道徳判断の言語分析を整理・評価し、そして両者を突き合わせることで、道徳判断の心理面と言語面を包括的に説明することのできる道徳判断理論を構築することを目指す。 本年度は、道徳判断のとくに感情面の分析のため、ヒューム道徳哲学の再解釈を行った。ヒュームの『人間本性論』(1739-40)と『道徳原理研究』(1751)を一次文献として読解しつつ、ヒュームの道徳哲学に関する(主に20世紀後半以降の)先行研究を批判的に検討した。この研究を通して、従来の解釈者が正常な共感にもとづく道徳判断の分析に終始しており、共感不全の場面に注目してこなかったことを示し、かつ、後者の場面を含めた場合、道徳判断の心理はどのように分析できるかを示した。加えて、ヒュームの道徳言語論が「共感」分析に対する不十分ないし不整合な補足として扱われてきたことを示したうえで、その道徳言語論の内実とヒューム道徳哲学全体の中での重要な位置づけを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画上、本年度の研究は、(1) 一次文献であるヒューム自身の著作の読解・分析、および、(2) 二次文献であるヒューム解釈論文の批判的検討を通して、(3) ヒュームの道徳哲学において感情のみならず、言語も重要な役割を果たしていることを明らかにすること、以上から構成されていた。実際の進捗として、(1)の一次文献の読解・分析に関しては当初の予定以上に研究を進めることができた。(2)の二次文献の批判的検討については、20世紀後半の先行研究の検討は十分に行うことができたものの、それ以前の古典的な先行研究に関して(とくに道徳言語論の観点から)さらなる調査が必要であることが明らかになり、またごく最近の先行研究について引き続き研究を進める必要がある。そして、(3)のヒューム道徳哲学の再解釈については、全体的な議論は固まったものの、今後、(2)の補完を踏まえたうえで、論文として成果をまとめ発表する必要がある。以上を総合して、十二分とは言えないまでも、当初の研究計画通りおおむね順調に進展していると判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度は、前年度のヒューム研究の成果を発表したうえで、道徳判断のとくに言語面の分析を進めるために現代メタ倫理学の整理を行い、そのうえでその成果とヒューム研究との接続を行い、道徳判断を心理・言語両面から解明する。 当年度前半は、膨大にある現代メタ倫理学の文献のなかで、まず、ムーア(1903)やエア(1936)といった古典を読解・整理し、そのうえで、とくに道徳判断の心理面と言語面を明確に区別し、批判的に論じた近年の先行研究を重点的に読解・整理する。これにより、道徳言語論の有力な学説を見極め擁護しつつ、その延長線上により説得力のある独自の理論を展開する。 当年度後半は、上述のメタ倫理学に関する研究成果と2021年度のヒューム研究の成果とを接続し、整合的かつ相互補完的な仕方で新たな道徳判断理論を構築し、道徳判断の心理面と言語面およびそれらの関係を解明する。こうして明らかにされた道徳判断の本性と実態にもとづいて、最終的には、道徳判断全体の是非、および、道徳判断の適正な使用の条件について一定の提言を行うことを目指す。
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Causes of Carryover |
当該助成金が生じた状況としては、2021年度においても国内外におけるコロナ感染拡大状況が継続したため、まず、当初参加予定だった研究会・学会がオンライン開催となり、旅費の使用が不必要になったこと、さらに、流通の混乱・遅延により、海外から入手予定だった研究図書が年度内に納品されなかったため、消耗品費の一部が不使用のままになったこと、これらが主因となり、当年度不使用分を翌年度分として請求することとなった。 2022年度の使用計画としては、2021年度に入手不可能だった分も含めた研究図書の収集・確保、および、研究成果発表に用いるPC関連製品の整備のための消耗品費、貴重図書の現地閲覧や国内外の学会への参加に伴う旅費、国外の学会誌へ研究成果を投稿するための英文校正費、国内外の資料の複写のための複写費を使用する予定である。
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