2022 Fiscal Year Research-status Report
Psychological and Linguistic Analysis of Moral Judgement based on Hume's Moral Philosophy and Contemporary Metaethics
Project/Area Number |
21K19942
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
相松 慎也 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 助教 (50908829)
|
Project Period (FY) |
2021-08-30 – 2024-03-31
|
Keywords | ヒューム / メタ倫理学 / 道徳判断 / 感情 / 言語 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、道徳判断――人のふるまいに関する善悪・是非の判断――の本性と実態を解明するべく、その心理面と言語面に着目し、「私たちが道徳判断を下す際、いかなる心理から、いかなる意味の言葉を発しているのか」という問いに答えようとするものである。そのために、まず、道徳判断を「共感」によって分析した18世紀スコットランドの哲学者デイヴィッド・ヒュームの道徳哲学を再解釈し、次に、現代の英米圏で展開されているメタ倫理学による道徳判断の言語分析を整理・評価し、そして両者を突き合わせることで、道徳判断の心理面と言語面を包括的に説明することのできる道徳判断理論を構築することを目指す。 本年度は、道徳判断の言語面の分析のため、ヒュームの研究を継続するとともに、現代メタ倫理学の資料調査・分析を行った。その中で、とくに道徳判断の実践的性質、すなわち、道徳判断と行為(その動機や理由)の結びつきの有無・程度をめぐる論争を吟味した。この研究を通して、ヒュームの道徳論には、表面上、道徳判断と行為の動機には結びつきがあり、また、近年の先行研究(Karlsson, M. M. 2006)が指摘しているように、道徳判断と行為の理由のあいだにも結びつきがあるように見えるのだが、しかし、実際のところ、ヒュームの最終的な道徳判断論においては、これらの結びつきがいずれも希薄化・形骸化していることを明らかにした。全体としてみると、道徳判断と行為の動機には偶然的な結びつきしか確認されず、また、道徳判断と行為の理由については、概念上の結びつきは確保されているものの、それはいわば「感情の錯覚」にもとづくものであり、実質的には道徳判断のうちに行為の理由を提供するものは存在しない。以上の研究成果は日本イギリス哲学会関東部会での発表および『イギリス哲学研究』での報告において示した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画上、本年度の研究は、(1) 現代メタ倫理学において道徳判断の心理面と言語面を明確に区別して論じた先行研究を調査・分析し、そのうえで、(2) 現代メタ倫理学とヒューム道徳論との接続を行い、道徳判断の心理面と言語面の関係を明らかにしつつ、その本性を解明することから構成されていた。 実際の進捗としては、(1)(2)ともに、当初の予想以上に広大な研究領域であったため、道徳判断の包括的な分析・解明には至らず、主として道徳判断の重要な側面である実践的性質(道徳判断と行為の結びつき)の分析・解明に専念することとなった。この研究集中の結果、研究成果の発表まで至ることができたため、十二分とは言えないまでも、当初の研究計画通りおおむね順調に進展していると判断できる。
|
Strategy for Future Research Activity |
2023年度は、道徳判断の心理面と言語面の関係解明の拡充のため、道徳判断論のもう1つの重要側面である「客観性」の分析を行う。すなわち、道徳判断は少なくとも見かけ上、客観的な判断のように振る舞うが、そうした客観的妥当性が道徳判断において成り立つ余地はあるのか、あるいは、そもそもそうした振る舞いが生じる原因はなにか、という点について研究する。 当年度前半は、現代メタ倫理学においてこの問題を論じた先行研究の調査・分析を行い(e.g. Mackie 1977; Smith 1994; Joyce 2001; 2007; Olson 2014)、現代有力な学説を見極め、補完を行う。 当年度後半は、上述のメタ倫理学に関する研究成果と、2021年度、2022年度に行ったヒューム研究と突き合わせることにより、整合的かつ相互補完的な仕方で新たな道徳判断理論を構築し、道徳判断の心理面と言語面およびそれらの関係を解明する。こうして明らかにされた道徳判断の本性と実態にもとづいて、最終的には、道徳判断全体の是非、および、道徳判断の適正な使用の条件について一定の提言を行うことを目指す。
|
Causes of Carryover |
当該助成金が生じた状況としては、当初参加予定だった研究会・学会の一部がオンライン開催となり、旅費の使用が一部不必要になったこと、また、流通の混乱・遅延により、海外から入手予定だった研究図書が年度内に納品されなかったため、消耗品費の一部が不使用のままになったこと、これらが主因となり、当年度不使用分を翌年度分として請求することとなった。 2023年度の使用計画としては、2022年度に入手不可能だった分も含めた研究図書の収集・確保、および、研究成果発表に用いるPC関連製品の整備のための消耗品費、貴重図書の現地閲覧や国内外の学会への参加に伴う旅費、国外の学会誌へ研究成果を投稿するための英文校正費、国内外の資料の複写のための複写費を使用する予定である。
|
Research Products
(1 results)