2021 Fiscal Year Research-status Report
A Comparative Study of the Newly Availabled Sanskrit Potala Palace Abhidharmakozakarika; Manuscript and Chinese Translations and Other Books
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21K19969
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Research Institution | Bukkyo University |
Principal Investigator |
田中 裕成 佛教大学, 総合研究所, 特別研究員 (50912408)
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Project Period (FY) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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Keywords | 倶舎頌 / 倶舎論 / 世親 / 漢訳 / 真諦 / 異読 / ポタラ宮倶舎頌 / アビダルマ |
Outline of Annual Research Achievements |
従来の研究では著者性の無い経典は文言が加筆される傾向にあるが、著者性の有る哲学書は加筆や改変が行われないとみなされる傾向にあった。しかし新出写本の分析により、著者性のある哲学書であっても保持していた学派の立場に適うように改変された可能性が明らかとなった。そこで本研究では新発見の『倶舎論本頌』写本の読解と比較研究を通して、学派間の思想的差異による、著者性のある哲学書の改変について明らかにする。 本年度は『ポタラ宮倶舎頌』に関する基礎資料の制作と、『倶舎論頌』において重要な意義のある「伝説(kila)」の語について調査を行った。 その結果、『ポタラ宮倶舎頌』の後半写本ではいずれも伝説の語が消失し、代わりにあたりさわりの無い単語が挿入されていることが明らかとなった。さらに、一部の漢訳や蔵訳においても伝説の語が消失していることが明らかとなり、さらには伝説の語の代わりに挿入される語の共通性も見出すことができた。また、一部の伝説の語については比較的新しいと考えられる梵本(プラダン本やゴーカレー本)と蔵訳にのみ存在することも明らかとなった。従来は梵文や蔵訳が原意を伝えており、漢訳の異読は翻訳者の手心によるものであると考えられる傾向にあったが、本研究を通して、漢訳異読であってもインドに源流があることが明らかとなった。さらに、著者の思想性を分析する際に重要な指標となる語であっても保持する学派の系統に適うように第三者の手が加えられている可能性を見出すことができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は諸本の対照作業を目標としていたが、現時点で入手できた資料に基づいて無事に完了し、今後の基礎資料が完成した。また、対照資料に基づき、『ポタラ宮倶舎頌』との異同の検討を行った。その結果、『真諦倶舎頌』と『ポタラ宮倶舎頌』には多くの興味深い類似点が明らかとなった。そこで、そのような類似点の一つとして伝説の語にまつわる調査を行い、明らかになった点に関する研究発表を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、予定通り、諸本の対照資料に基づく『ポタラ宮倶舎頌』の暫定的な校訂に着手する予定である。また、可能であれば、今年度に明らかになった他の類似点について整理を行って研究発表を行いたい。さらに、今年度の研究において一部の蔵訳倶舎頌に貴重な情報が存在することも明らかとなったため、そちらについても随時研究を行いたい。
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Causes of Carryover |
対照資料製作時に諸本の蒐集を予定していたが、一部の資料についてはコロナ関連の諸般の事情により調査や入手を行うことができなかった。そのため複写資料の処理に利用する予定だった費用がいずれも使用できなかった。そのため、次年度に費用を繰り越し、資料の入手準備が整い次第、それらに費用を用いる予定である。
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