2021 Fiscal Year Research-status Report
会計の目的との関係に基づいた退職給付会計における現在価値測定の検討
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21K20128
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Research Institution | Aoyama Gakuin University |
Principal Investigator |
高井 駿 青山学院大学, 会計プロフェッション研究科, 助手 (30910822)
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Project Period (FY) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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Keywords | 退職給付会計 / 現在価値測定 / 割引率 / 利息費用 / 期待収益 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、退職給付会計における現在価値による債務の評価とそれに伴う利息費用の認識について、財務会計全体の体系における目的との関係から検討を行うことにより、その測定の意義を明らかにすることにある。今年度は、退職給付会計基準の歴史的変遷の整理と、財務会計における現在価値測定について論じた先行研究のレビューを行った。 退職給付会計基準の変遷の整理については、以下のとおりである。退職給付会計基準において、割引率としては資産の期待収益率、および、安全性の高い債券の利回りに代表される資産の収益率とは異なる利率が採用されており、利息要素の認識方法としてはこれを利益計算に含めない方法、資産の期待収益を認識する方法、資産の期待収益と債務の利息費用を認識する方法、純額としての負債(資産)に対する利息を認識する方法が採用されている。これらの会計処理について、ストックの評価額の観点、あるいは、利益計算の観点から、その意義を検討する必要がある。当該研究成果については、2022年3月刊行の『会計プロフェッション(青山学院大学)』第17号に掲載された。 財務会計における現在価値測定について論じた先行研究のレビューについては、以下のとおりである。現在価値測定の目的としては、正味価値を直接表示すること、および、市場価格の代替値を得ることの2つに分類されうる。正味価値の表示についてはその評価は市場の役割であるとして批判されうるのに対して、市場価格の代替については市場価格による測定が適切であるかどうかが問題とされる。現行基準における現在価値測定については、いずれの測定の目的と結びついているのかという点と、その測定の目的が会計の目的との関係から適切であるかという点を検討する必要がある。当該研究成果については、国際会計研究学会第38回研究大会において報告を行い、現在、論文投稿の準備中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今年度に実施した先行研究のレビューにより、財務会計における現在価値測定の目的は、正味価値を直接表示すること、および、市場価格の代替値を得ることの2つに分類されうることが明らかとなった。当初の計画においては、このような測定の目的の観点から退職給付会計基準における現在価値測定について検討することで、財務会計全体の体系における目的との関係からその意義を明らかにする予定であった。 しかし、今年度のもう一つの研究成果である退職給付会計基準の歴史的変遷の整理から、現在価値測定の意義について検討するためには、測定の目的の観点のみでは不十分であり、以下の2点について追加的な検討が必要であると考えられる。すなわち、適用される割引率および事後測定の観点である。 割引率の選択については、現在価値による測定を提案する際に最も議論のある論点であり、その選択によって測定の目的が決まると考えられるといわれている。他方で、現行の退職給付会計基準について、米国基準、国際基準および日本基準の各基準は、安全性の高い債券の利回りを共通して割引率として適用しているものの、その測定の目的には相違がみられることも明らかとされている。測定の意義を明らかにするためには、現在価値測定が要求されている他の基準についても参照しながら、割引率の適用についても検討する必要があると考えられる。 また、現在価値測定に関する議論は当初の局面に限定されていることも多いが、事後の局面において認識される利息要素について、利益計算の観点から検討する方法もとりうる。現在価値測定においてリスクの要素を将来キャッシュフローと割引率のいずれに反映させるかにより、当初の測定額が同一であっても事後の結果は異なりうることが指摘されている。測定の意義を明らかにするためには、リスクの反映方法が事後測定に与える影響の観点からの検討も必要であると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
現在価値測定において適用可能な割引率と、割引率の適用が事後測定に与える影響について検討を行う。そのために、現在価値測定を要求している会計基準における測定の目的と適用される割引率の関係、および、理論的な検討を行っている先行研究の事後測定の観点からの再整理を行う。 現在価値測定を要求している会計基準としては、退職給付会計のほかに引当金、リース、減損および資産除去債務の会計等が挙げられる。これらの各基準について、そこでの測定の目的と適用可能な割引率、キャッシュフローと割引率へのリスクの反映方法、および事後測定の方法について整理したうえで、基準間の整合性についても検討する。 理論的な検討を行っている先行研究の一つとして、米国の会計基準設定主体であるFASBの討議資料および概念書が挙げられる。そこでの議論において、測定の目的と適用可能な割引率、キャッシュフローと割引率へのリスクの反映方法、および事後測定の方法がどのように考えられてきたのか歴史的な経緯も含めて整理したうえで、基準の設定に与えた影響についても検討を行う。 上述の検討結果については、2022年度の日本会計研究学会全国大会において報告し、年度内に論文としてまとめ公表することを目指す。さらに、その成果をふまえて退職給付会計における現在価値測定について検討を行い、財務会計全体の体系における目的との関係から、現在価値による債務の評価とそれに伴う利息費用の認識の意義を明らかにする。
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Causes of Carryover |
参加予定であった学会の開催方式がオンライン型となり、旅費の支出が発生していない。また、研究に当初の計画より遅れが生じたこともあり、論文投稿料が発生せず、図書購入額も計画より小さいものとなっている。 次年度使用額については、研究計画の変更により検討の対象とする会計基準の範囲が広がったことにより、必要な文献についても当初の計画より多くなったことから、その購入に充当する予定である。
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