2023 Fiscal Year Annual Research Report
啓蒙期フランスにおける教育可能性論と自然誌の交差に関する思想史的研究
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21K20243
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Research Institution | Tokiwa University |
Principal Investigator |
杉山 大幹 常磐大学, 人間科学部, 助教 (60906692)
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Project Period (FY) |
2021-08-30 – 2024-03-31
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Keywords | 感覚論 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、啓蒙期フランスにおける教育可能性をめぐる思想の特徴とその形成過程を、同時代の自然誌研究からの影響に着目して明らかにしようとするものである。とくに自然誌学者ビュフォン(G. -L. L. de Buffon, 1707-1788)に注目し、その教育論の特質の検討と、同時代の思想家による教育論と比較に取り組んできた。 令和3年度には、ビュフォン人間論において教育のテーマがどのように論及されているかを検討した。令和4年度には、ビュフォン教育論の具体的展開として主著『自然誌』における子どもの養育論に着目し、同時代の養育論との関係の解明に注力した。令和5年度には、ビュフォン教育論が人間論からどのような影響を受けて構築されたものかを検討した。 得られた知見としては、第一に、教育のテーマが教育そのものへの関心から問われているわけではなく、人間をほかの動物とは異なる存在として特徴づける性質、つまり「人間の本性」をめぐる探究において、論点の一つとして教育が論じられていたと明らかになったことがある。第二に、ビュフォン『自然誌』は、動物の生態や「未開人」の習俗についての記述が豊富な情報源として同時代の思想家に重宝されただけでなく、ビュフォンがそうした情報に付与した意味や、そうした情報を用いて組み立てた人間論じたいが頻繁に参照・引用されており、人間と動物の境界をめぐる当時の論議を理解するにあたりさらにビュフォンを中心とした研究が必要であることが明らかになった。第三に、ビュフォン人間論においては同時代の多くの思想家と感覚論的人間観が共有されているが、感覚論哲学の主要な理論家とされるコンディヤックや、その強い影響のもと教育論を構築したエルヴェシウスとは人間観のレベルですでに差異が確認でき、教育論上の違いを、こうした人間観の相違との関係のもとでさらに考える必要があると明らかになった。
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