2021 Fiscal Year Research-status Report
Bi,Sb系複合アニオン半導体素子の新奇波長応答とエネルギー変換の新学理構築
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21K20558
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
西久保 綾佑 大阪大学, 工学研究科, 助教 (10909188)
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Project Period (FY) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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Keywords | 光電変換 / デバイス / 無機太陽電池 / センサー |
Outline of Annual Research Achievements |
Sbカルコハライド (SbSI) を用いたp-i-n型デバイスにおいて、照射光の波長によりJV特性が可逆・迅速に変化する新現象(Wavelength-dependent photovoltaic effect: WDPE)を発見し、本現象の詳細とメカニズムについて調査を行った。一般に太陽電池の出力特性を記述するShockleyダイオード理論では、照射波長によるJV特性変化は考慮されていない。実際シリコン等の従来素子では上記のような波長依存特性は見られず、本現象は新たなデバイス物理として非常に新しい。また従来素子と異なり、液晶フィルタを用いずに単一素子で波長を識別できることから、薄膜イメージセンサ等への応用も期待できる。 まず複数の電荷輸送層をSbSI:Sb2S3混合層(光活性層)と組み合わせ素子評価を行ったところ、TiO2(電子輸送層)とPCPDTBT(正孔輸送層)を用いた素子構造において特異的にWDPEが強く現れることが判明した。また時間分解マイクロ波伝導度法からホットキャリア生成を示唆する結果が得られ、過渡電圧法・CELIV法によりUV照射時に一時的に電荷再結合が加速することを見出した。以上から本現象について、素子の接合界面において、UVにより生成したホットキャリアが補足されmetastableなトラップ準位を形成することで現れるという機構モデルを考案した。さらに、本デバイスを用いてUV(波長375 nm)と可視光(波長515 nm)の識別、およびこれらを同時照射した際の強度比を認識することにも成功した。 また、カルコハライド材料のコロイドナノ粒子の合成手法開発にも着手している。コロイドナノ粒子は低温成膜が可能になるためデバイス開発において非常に有用である。硫化物やハロゲン化物ナノ粒子は多くの先行研究があるがカルコハライド類は非常に少なく、重要性は高い。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
SbSI光電変換素子において、既存のデバイスでは起こりえなかった波長応答特性が発現し、そのメカニズムについて調査を行い、学会発表と論文執筆・submitまで行った。当初は本現象の機構として、UV照射により活性層/正孔輸送層界面において一時的にトラップ準位が生成することでWDPEが発現すると予想していたが、複数の素子構造における波長依存特性評価の結果、活性層/電子輸送層の界面状態もWDPE発現に重要な役割を有することを発見した。また当初の計画で示した通り、マイクロ波分光法や過渡電圧測定、CELIV法等の時間分解測定を行うことで、異なる励起波長照射下におけるキャリアダイナミクスの変化を明らかにした。UV照射直後は電荷キャリア寿命の一時的な低下が確認され、一時的なトラップ準位の形成を支持する結果が得られた。この理由として、UV照射により生成したホットキャリアが接合界面においてラジカル生成などによる一時的なトラップ準位形成を起こすことでWDPEが発現すると考えた。WDPEを用いた波長認識機能も検証し、論文投稿まで至っている。また、ここまでの成果を第82回応用物理学会秋季学術講演会で発表し、講演奨励賞に選ばれている。一方、実際に接合界面においてどのような化学種が生成しているかについては顕微ラマン等を用いて調査中である。 さらに、Bi,Sb系カルコハライド材料の新たな合成手法としてコロイド微粒子のボトムアップ合成法の開発にも取り組んでいる。組成SbSIにおいて粒径数十nm~数百nm程度の微粒子のボトムアップ合成法を発見している。本手法はまだ最適化途中であるが、他の未踏のカルコハライド材料にも転用が期待され、重要性は高い。
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Strategy for Future Research Activity |
WDPE現象はTiO2/SbSI:Sb2S3/PCPDTBT接合素子において特異的に発現しており、WDPE発現にどのような界面条件が必要か、一般化された知見はない。また波長依存性の強さは素子作製の時期によりばらつきがあり、より詳細な知見が求められる。そこで、多様な界面処理を行い、WDPEへの影響を調査する。電子輸送層/SbSI:Sb2S3界面においては、酸化チタン表面の親水化の影響や、酸化錫等による表面被覆を行った際の波長依存特性を評価する。SbSI:Sb2S3/正孔輸送層界面においては、PCPDTBTが有するシクロペンタジチオフェン(CPDT)ユニットからSbへのキレート配位が本現象の鍵となっている可能性がある。そこで、多様な正孔輸送材料を用いて素子を作製し、CPDT構造の有無による影響を統計的に調査する。また、CPDTモノマーの薄層(数nm)をSbSI:Sb2S3層表面に形成した際の効果も調査する。以上の取り組みによりWDPE発現のための条件をより一般化・詳細化する。 微粒子合成においては、現在粒径数十nm~数百nm程度の微粒子が得られているが、今後さらに粒径の均一化および塗布プロセスの最適化を行う。コロイド微粒子を基板上に塗布するには、長いアルキル鎖を持つ表面配位子を小さな配位子に交換する必要がある。そのため、配位子交換剤(ヨウ化トリメチルアンモニウム等)の検討を行う。さらに本手法を用い、未踏のペロブスカイト型AMSX2(A:Cs,CH3NH3+等、M:Bi,Sb、S:硫黄、X:ハロゲン)合成も試みる。本材料は、申請者の先行研究において溶液プロセスによるバルク合成を試みたが、より安定な異相が現れたため得られなかった。そこで、速度論的な微粒子合成や、高温固相合成を試みる。本材料は理論計算では直接遷移型のバンド構造が予想されており、優れた光電気物性が期待される。
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Causes of Carryover |
未使用額が生じた理由として、試薬や機器を購入した際、大容量での1回購入や割引交渉を行った結果当初の予定より使用額が低くなったことが挙げられる。しかしながら、次年度研究を継続するためには高額な有機半導体材料の購入が必要であり、この未使用額を用いて購入する。次年度分の予算は当初の計画通り、試薬材料費や学会旅費、実験施設使用料として使用する。
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Research Products
(9 results)