2021 Fiscal Year Research-status Report
加齢性疾患の診断・治療標的探索を目指した異性化アミノ酸残基の四次元LC分析法開発
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21K20721
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
石井 千晴 九州大学, 薬学研究院, 助教 (90905308)
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Project Period (FY) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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Keywords | 加齢性疾患 / タンパク質 / アミノ酸残基 / 多次元HPLC / 質量分析 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、加齢性疾患の新規診断法・治療標的を探索するため、タンパク質中D-アミノ酸残基の網羅的精密定量を可能とする分析法(キラルアミノ酸の四次元LC分析装置)開発を行う。申請者等が有する独自技術(特許4980740号、6296382号、US-9266826等)を駆使して予備検討を行った結果、従来法の課題であった分析対象の網羅性および測定値の正確性不足を解決可能であると期待された。そこで当該年度は、四次元LC分析技術における対象アミノ酸の網羅性拡大を目指し、これまで測定困難であったアミノ酸残基(アスパラギン(Asn)、グルタミン(Gln)、システイン(Cys)、ロイシン(Leu)連鎖異性体)について各種分析条件を精査した。これらのアミノ酸はペプチドや劣化タンパク質中でD型残基として存在が報告されているものもあり、創薬・診断領域において正確な分析法開発が期待されている。 アミノ酸残基の一斉分析に際して、酸加水分解により得た遊離アミノ酸をキラル分離する方法は有用であるが、Asn、GlnおよびCysは反応中の構造変化に起因して正確な定量が困難であった。本研究ではホフマン転位反応や還元アルキル化反応等の前処理法を検討し、加水分解・四次元LC分析技術と統合することでD-Asn、D-GlnおよびD-Cys残基の精密定量法開発を行った。また、Leu、イソロイシンおよびアロイソロイシンは構造が酷似しているため、キラルを識別した一斉分析には課題が残されていた。本研究では、これまでに申請者等が設計・開発してきたPirkle型カラムライブラリーのうち、Leu連鎖異性体およびそれぞれの鏡像異性体を一斉に分離可能な光学分割カラムの探索を行った。併せて九州大学病院眼科と協力して白内障患者の水晶体サンプルを収集し、開発した四次元LC分析技術を用いて実際の老化組織におけるD-アミノ酸残基の含量解析を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
代表的なタンパク質構成アミノ酸について四次元LC分析技術を構築するとともに、酸加水分解による一斉分析が困難なアミノ酸について前処理条件を検討した。 AsnおよびGln残基は加水分解時にアスパラギン酸(Asp)およびグルタミン酸(Glu)に変換されるため正確な定量が困難であった。本研究では加水分解前にホフマン転位反応を行うことでAsn、Glnの構造を変化させ、Asn/Asp/Gln/Glu残基を識別可能な四次元分析技術を構築した。光学分割条件の検討に際しては、対象アミノ酸それぞれの鏡像異性体分離に適したカラムを精査し、従来は定量困難であった微量D-アミノ酸残基の定量を達成した(日本薬学会第142年会で発表)。 側鎖の反応性が高いCys残基は操作中に容易に定量値が変化するため、本研究では還元カルボキシメチル化により側鎖を保護し、加水分解・四次元LC技術を統合した分析法開発を行った。カルボキシメチルCysは定量的・再現的に分析可能であり、実際のタンパク質試料において約4%のD型残基を検出した(日本薬学会第142年会で発表)。 キラルを識別した異性体分離が困難であったLeu連鎖異性体については、申請者等が設計・開発してきたPirkle型カラムライブラリーのうち、Singularity CSP-003Sを用いることでLeu、イソロイシン、アロイソロイシンおよびそれぞれの鏡像異性体を一斉分離可能であることを明らかにした(日本薬学会第142年会で発表)。以上より、本研究は当初の計画以上に進展していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
当該年度までに様々なタンパク質中アミノ酸残基の分析法開発を達成した。今後はこれらの方法を用いて様々なペプチド・タンパク質に含まれるアミノ酸残基を測定し、分析法の評価、問題点の抽出および改善を行う。トリプトファンおよびチロシン残基については酸加水分解により分解・ハロゲン化されると考えられるため、今後、加水分解条件について精査する必要がある。また、ヒスチジンおよびアルギニンについては、現行の四次元LC技術では安定した分離分析に課題があるため、引き続き測定条件の精査を行う。 九州大学病院眼科と協力して白内障患者の水晶体サンプルを収集し、構成タンパク質中の代表的なアミノ酸残基について測定を行った結果、数種のD-アミノ酸残基が再現的に検出された。今後は当該年度に開発した前処理法等を駆使して様々なアミノ酸残基の分析も行い、D化が疑われるアミノ酸残基を精査する。また、同病院循環器内科との協力で動脈硬化等の臨床検体についても収集可能であり、様々な組織タンパク質におけるアミノ酸残基の異性化評価が期待される。申請者等が飼育・維持している老齢マウスを用いることで、様々な劣化・老化タンパク質を採取することも可能である。 当該研究領域では、加齢組織におけるAsp以外のアミノ酸残基D化については報告が限られており、本研究により開発した精密定量法を用いて更なる解析を進めることにより、様々な加齢性疾患の新規診断マーカーや治療標的となり得るアミノ酸残基の探索が期待される。
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Causes of Carryover |
当該年度に購入予定だった試薬および実験機器等のうち、流通の停滞に起因して入手困難であった品目があり、物品費の執行額が予算を下回った。これらの試薬、実験機器については、引き続き次年度に購入を検討する。また、対面参加を予定していた複数の学会が延期・フルオンライン開催されたため、今年度の未使用額については次年度に繰り越し、成果発表資金として使用する予定である。
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Research Products
(10 results)