2021 Fiscal Year Research-status Report
マルチオミクス解析による下垂体神経内分泌腫瘍の多様性分子基盤の解明と臨床への応用
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21K20825
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
高 躍 千葉大学, 大学院医学研究院, 特任研究員 (70907683)
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Project Period (FY) |
2021-08-30 – 2023-03-31
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Keywords | 下垂体神経内分泌腫瘍 / マルチオミクス解析 / Single Cell解析 / 腫瘍特性 / 予測因子 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、希少疾患である下垂体神経内分泌腫瘍(PitNETs)の病態分子基盤の解明とその臨床形質マーカー開発への応用を目的に、154症例の摘出腫瘍検体を用いてRNAseqとプロテオミクス解析および臨床情報との統合解析を実施した。3’RNA-seqおよび高深度DIA解析・SWATH-MS法を用いたプロテオミクス解析により、約20000遺伝子と11000分子の定量的発現評価が可能となった。希少疾患である下垂体神経内分泌腫瘍154例を対象とした比較的大規模コホート研究、特にマルチオミクスアプローチによる網羅的解析はこれまでほとんど報告がなく、データ基盤と臨床パネルを作成した点が研究実績となった。その質的評価では、個々のサンプル内の各遺伝子のmRNAとタンパク質の発現量を比較した結果、すべてのサンプルでmRNA-タンパク質は有意な正の相関を示した。この結果は、本データ基盤が非常に高精度である結果であり、腫瘍特性や臨床情報との統合解析をするために有用であることが示された。次に、PitNETsの腫瘍特性を明らかにする目的で、RNAseqおよびproteomicsを用いてUMAPのclustering解析を行なった。その結果、腫瘍が正常の下垂体分化の各ステージの特徴を有したグループに分類され、特異的マーカーであるSF1(NR5A1), Tpit(TBX19), Pit1(POU1F1)の発現を観察できた。さらに、各グループの特性を明らかにする目的で、 各々のlineageに特異的に高発現する遺伝子と分子を抽出した結果、非機能性腺腫にSF1(NR5A1)・GATA2, ACTH産生腺腫にTpit(TBX19) ・POMC、GH・PRL・TSH産生腺腫にPit1(POU1F1)の有意な高発現を確認できた。今後、さらなる分子生物学的病態とその臨床表現系との関連を解析していく必要がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
Omics解析に関しては予定通り行い、154症例の下垂体腺腫の腫瘍組織を全てRNAおよびprotein分画に分離、抽出し、sequencing作業とMS分析を終え、データとして解析を進めることができるデータ基盤としてある。そのデータ解析に関しても、下垂体腺腫の内分泌の機能性と腫瘍の増殖性を含めてclustering分類、pathway解析、腫瘍マーカーの同定などを順次進めており、概ね進捗は順調である。また、腫瘍の多様性を検証するために下垂体腫瘍のシングルセル解析のための方法論と調整方法に関する基礎検討実験も行い、手術から得られた下垂体腺腫の腫瘍組織をdigestionし、腫瘍組織内の細胞をバラバラして顕微鏡で確認した。そして、10X Chromium シングルセルシステムを用いて、シングルセルトランスクリプトーム3'遺伝子発現プロファイルとマルチオミクスを実施するための微細な条件検討を進めている。特に、血球成分と死細胞を除去する方法について、ほぼ条件検討が終了している。今後、患者さん1症例の腫瘍組織に対して、約数万個の腫瘍組織細胞を分離して、シングルセル解析を試験的に行う予定である。データ解析手法に関しては、研究室にあるRコンソールを用いたシングルセル用の解析パッケージをインストールして、遺伝子発現signatureから下垂体細胞の多様性と不均一性を探り、omics解析で見つけたバイオマーカーの検証、新規ターゲットの発見を行う準備ができている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策として、マルチオミックスデータ基盤を活用した下垂体神経内分泌腫瘍の新たな分子基盤の探索と、臨床情報との統合解析を用いた新規マーカーや手術難易度に影響を与える腫瘍の分子生物学的特性を解明していくことが重要である。具体的には、bulkの154症例の検体を用いたデータ基盤をフル活用して、上記のclusteringにより分類された3つのグループが、それぞれ分子生物学的にどのようなpathwayがenrichして、どのように臨床所見に影響を与えているかについてGene Set Enrichment Analysis(GSEA)を通して解析する方針である。臨床情報との統合解析については、腫瘍の両側海面静脈洞への浸潤性および腫瘍の硬さが手術の難易度に直接影響する点を踏まえて、硬性腫瘍やKnosp Grade4と強い相関を示す分子ネットワークを明らかにする予定である。また、重要な方策として、臨床に関与するマーカーをシングルセル解析データと紐づける作業も重要である。下垂体腺腫は他の脳腫瘍と同様でheterogyousな細胞集団であり、多種多様な細胞集団から構成され、多彩な臨床症状を呈しているため、腫瘍の中で各々な細胞をシングルセルレベルでクラスター分類することで、これまで捉えることができなかった特徴や腫瘍特性を新規に見出すことが可能である。特に、新たなマーカーや遺伝子は、シングルセルで一部分の細胞集団に集中して発現することが想定される。従って、海綿静脈洞に浸潤しやすい腺腫の中の原因となる細胞集団の特性や、遺伝子変異を持っている腫瘍の中の特定の腫瘍細胞特性を見つけ出すために、マルチオミクス解析で同定した遺伝子・分子群をシングルセルで検証することに大きな意義がある。
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[Journal Article] Renal Injuries in Primary Aldosteronism: Quantitative Histopathological Analysis of 19 Patients With Primary Adosteronism2021
Author(s)
Ogata H, Yamazaki Y, Tezuka Y, Xin Gao, Omata K, Ono Y, Kawasaki Y, Tanaka T, Nagano H, Wada N, Oki Y, Ikeya A, Oki K, Takeda Y, Kometani M, Kageyama K, Terui K, Celso E Gomez-Sanchez, Shujun Liu, Morimoto R, Joh K, Sato H, Miyazaki M, Ito A, Yoichi Arai A, NakamuraY, Ito S, Satoh F, Sasano H.
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Journal Title
Hypertension
Volume: 78
Pages: 411~421
DOI
Peer Reviewed / Open Access
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[Presentation] Multi-Omicsから見た下垂体神経内分泌腫瘍の特性2021
Author(s)
高 躍, 村田和貴, 大和 梓, 永野秀和, 松田達磨, 堀口健太郎, 岩立康男, 福原紀章, 西岡 宏, 山田正三, 井下尚子, 田中知明
Organizer
第32回間脳・下垂体・副腎系研究会
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[Presentation] Damaged intestinal stem cells are restored exclusively by daughter crypt cells that require ASCL2 and respond to Interleukin-112021
Author(s)
村田和貴, 藤本真徳, 高 躍, 宮 英博, 松田達磨, Zhahara Siti, 河野聡美, 宮本康基, 中山 哲俊, 横山真隆, 田中知明
Organizer
第39回内分泌代謝学サマーセミナー
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[Presentation] genetic subtypingに基づくコルチゾール産生腺腫の遺伝子発現・病理所見の包括的解析2021
Author(s)
樋口誠一郎, 吉井聡美, 高 躍, 姚 躍, 永野秀和, 橋本直子, 中山哲俊, 西村 基, 山形一行, 横山真隆, 柴田貴久, 伴 俊明, 藤井陽一, 小川誠司, 田中知明
Organizer
第94回日本内分泌学会学術総会
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[Presentation] Multi-Omicsから視た機能性下垂体腺腫の転写ネットワークの役割2021
Author(s)
高 躍, 村田和貴, 堀口健太郎, 永野秀和, 橋本直子, 中山哲俊, 樋口誠一郎, 山形一行, 横山真隆, 岩立康男, 田中知明
Organizer
第94回日本内分泌学会学術総会
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