2022 Fiscal Year Research-status Report
B型肝炎ウイルスのepsilon構造による病態の解析
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21K20906
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Research Institution | Nagoya City University |
Principal Investigator |
木村 吉秀 名古屋市立大学, 医薬学総合研究院(医学), 准教授 (30906508)
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Project Period (FY) |
2021-08-30 – 2024-03-31
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Keywords | B型肝炎 / epsilon構造 |
Outline of Annual Research Achievements |
垂直感染や水平感染によりB型肝炎ウイルス(HBV)は持続感染となり、数十年の経過を経て、肝硬変となり、合併症として腹水、黄疸、肝性脳症、サルコペニアを生じる。その経過によっておこる肝細胞癌に関しても、最近では局所治療として従来の手術やラジオ波治療に加えて陽子線治療が導入され、さらに進行癌において2種類の免疫チェックポイント阻害剤が使用可能となった。しかしながら、繰り返し再発をきたす重篤な疾患である。現在、新しい作用機序による抗HBV治療薬は開発中であるが、現行治療では長期に渡る抗ウイルス剤内服治療が必要である。従って、HBVの基礎研究は臨床的なブレイクスルーをもたらすことが期待され重要である。HBVをそのプロトタイプとするヘパドナウイルスの複製過程では、epsilon構造は重要な役割を果たしている。さらに最近ではHBVやヘパドナウイルスの祖先というべきnachednavirusが発見され、その複製においてはpregenomic RNAのepsilon構造を持つことが明らかとなっている。上記の研究報告から、epsilon構造を構成するRNAの遺伝子変化が、ウイルス複製の非効率化や不能状態につながる可能性がある。過去に十分な解析が行われておらず、臨床病態との関連という点でも重要であると考える。Epsilon構造内にメチル化をきたすDRACH motifが存在することが明らかとなったが、その構造の各種HBVにおける保存性については十分に検討が行われていない。今回保存性の高い、DR1、DR2とDRACH motifを比較することでDRACH motifの保存性を検討し、この領域が動物から人に至るまでのHBVにおいて非常に高度の保存性を示すことを発見した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
最新の報告ではEpsilon構造のlower-stem内にDRACH motifが存在することが明らかとなっている (Kim et al., PNAS 2022)。過去の実験データにおいてはDRACH motifの配列変化がウイルス複製に大きく関与することが分かっており、そこでHBVにおけるN6メチルアデノシン修飾モチーフ配列の保存性に関する検討を行った。既報では、m6AはHBVの転写産物の安定化、およびpregenomic RNAの逆転写を制御することが明らかとなっている。そこで、ヒトを含む様々な宿主に感染するHBVにおけるDRACH motif配列の保存性について検討を行った。ヒトHBVの各遺伝子型および各種宿主に感染するHBVのDRACH motifに相当する部位の配列、保存性の高いDR1、DR2配列、 そしてランダムに抽出したS領域の配列について、配列保存性の比較検討を行った。各種HBVのDRACH motif % identityはDR1, DR2と同レベルの保存性を示した。ランダムに抽出したヒトHBVの各遺伝子型や各種宿主に感染するHBVにおけるS領域の配列と比較して、DRACH領域は有意に高度な保存性(p <0.001)を示した。配列を詳細に解析すると、ヒトHBV遺伝子型G型においてはDRACH motifが保存されておらず、したがって、HBV遺伝子型G型のウイルス学的特徴に影響を及ぼしている可能性が示唆された。今回の検討からHBVにおけるDRACH motifは, 高度な保存性を示し, すなわちDR1やDR2と同レベルの保存性を示す領域がHBVゲノムに存在することが明らかとなった。 また, DRACH領域の変化はウイルス遺伝子型の特性に影響を与える可能性を示唆するデータであり、今後さらに検討を進める。
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Strategy for Future Research Activity |
HBVのepsilon構造はヒトHBVのみならず、様々な動物に感染するhepadnavirusや、さらにhepadnavirusがS領域をoverprintingとして獲得する前段階のウイルスであるnachednavirusにおいても保存されている。今回の検討は、比較ゲノム解析により得られたデータを実際の臨床経過のHBVと比較することで病態に関連する変化を捉えることを目的に行っている。 今回、HBV epsilon構造の解析からepsilon構造のlower-stem内にDRACH motifが存在し、各種のorthohepadnavirusにおいてDR1やDR2と同様に非常に高度な保存性を示すことが明らかとなった。その中で、ヒトHBV遺伝子型G型においてはDRACHコンセンサス配列とは異なる配列を持ち、それは遺伝子型G型のグループ内で保存されている。この変化が遺伝子型G型の複製における特徴と関連する可能性が高いと考えられる。実際に、遺伝子型G型におけるウイルスの逆転写活性の低下や蛋白産生増加に関する実験論文はあり、DRACH領域の遺伝子配列は重要と考えられる。さらに各生物種のalignment比較において、epsilon構造に含まれる位置に多型的な3塩基欠損、そして別のグループではさらに3’側に3塩基の挿入が存在することを予備的な解析で確認している。上記構造の近傍の変化にも注目してゆき、今後、RNAの2次元構造の解析、epsilon構造の相補的塩基組み合わせを詳細に検討し、臨床病態と関連する変化を探索する。
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Causes of Carryover |
コロナ禍で現地への学会参加がなかなか困難であり、またDNA解析などの研究が予定通り施行できなかったため、次年度使用額が生じました。 今年度は、新型コロナ感染症の5類移行に伴い、積極的に現地への学会参加および研究、論文作成を予定しています。
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[Presentation] 切除不能肝細胞癌に対するアテゾリズマブ・ベバシズマブ併用療法の有効性・安全性に関する多施設共同研究2022
Author(s)
的屋 奨, 鈴木 孝典, 松浦 健太郎, 藤原 圭, 名倉 義人, 河村 逸外, 祖父江 聡, 日下部 篤宣, 鈴木 雄太, 奥村 文浩, 宮木 知克, 田中 義人, 木村 吉秀
Organizer
第26回日本肝臓学会大会
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