2011 Fiscal Year Annual Research Report
スーパー制限酵素を用いたゲノム・マニュピュレーション工学の創成
Project/Area Number |
22000007
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Research Category |
Grant-in-Aid for Specially Promoted Research
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
小宮山 真 筑波大学, 生命領域学際研究センター, 教授 (50133096)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
須磨岡 淳 筑波大学, 医学医療系, 講師 (10280934)
徐 岩 宮崎大学, 医学部, 准教授 (40506763)
樋口 麻衣子 東京大学, 分子細胞生物学研究所, 助教 (30420235)
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Keywords | ゲノム編集 / 相同組換え / ペプチド核酸 / セリウム / 人工酵素 / バイオテクノロジー / 核酸 / 制限酵素 |
Research Abstract |
当初の研究計画に沿って、スーパー制限酵素(ARCUT)を用いてヒトゲノムを所定の場所で選択的に切断し、所望のDNA断片を切り出すとともに、ヒト細胞内におけるゲノム改変について追究した。また、ARCUTを広範に適用するために、「第2世代のARCUT」の開発を行った。 テロメアをターゲットし、DNA断片の切り出しを行った。テロメアはどの染色体でも全て同じ配列であるが、この繰り返しが終了した場所の配列はそれぞれの染色体に固有である。そこで、ここをターゲットとし、抽出した全ゲノムDNAに対して、対応するARCUTで処理した。その結果、11qとXp/Ypの各染色体から得られたテロメアの長さは互いに1.6倍も異なることが分かった。 ヒト細胞内に導入されたプラスミドに対して、相同組み換えがARCUTにより促進されること、大きなサイズの遺伝子(約1 kb)が挿入できること、組換え効率がDNAドナー長に顕著に依存すること、細胞周期の制御で組換え効率が向上できること などが明らかになった。ただし、組換え効率は、ARCUTの導入時期、導入方法をはじめとする様々な要因が複雑に関与していることも明らかになった。 ホモプリン・ホモピリミジン配列に対して、PNA/DNA系三重らせん形成を利用し、効率的に切断することに成功した。また、高塩濃度でPNAのインベージョンが非効率化してしまう点に関しては、ポリアミド系オリゴマーとPNAとをハイブリッド化して課題を解決した。GC-rich配列対するPNA/DNA系のグアニン四重鎖形成手法と合わせ、ほぼすべての配列を認識して切断する第2世代ARCUTを構築することに成功した。 その他の関連技術として、ARCUTで切り出したDNA断片の末端は、通常の制限酵素の切断末端とは構造が大きく異なるが、これと相補的な末端構造を持つDNA断片を簡便に調製するPCR法を確立した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ヒト細胞から抽出したゲノムの操作に関する研究は、ほぼ計画通りに順調に進行しており、今後このまま引き続き進めることにより十分な成果が得られるものと思われる。それぞれの染色体からテロメアを切り出す技術が確立できたことは重要である。また我々の研究室では、テロメアに関する研究を別箇に進めるとともに、テロメア付近で最近新たに発見された“テロメア配列を持つRNA”に関する新知見を蓄積してきた。したがって、本研究で確立した“テロメア取得技術”とこれらの知見とを融合することにより、さらに大きな成果があげられると信じている。また、ARCUTの活用により、ゲノムの中の特定部位に結合するタンパク質などの解析も可能であり、関連科学に大きなインパクトを与えられるはずである。従来法では「特定のタンパク質がゲノムのどこに結合するか」が解析できるだけであったのに対し、本研究では、例えば、「特定のガン関連遺伝子の発現に際してどのようなタンパク質がどのように結合するか」が直接に明らかにできるので、従来法とは異なる次元の重要情報が提供できるはずである。ヒトゲノムの中のほぼすべての配列を認識して切断できるようになっているので、残された期間で、十分に大きな成果として完成できるものと考えている。 一方、ARCUTのヒト細胞内での利用に関しては、細胞の持つ複雑さのために、細胞外の応用と比べると困難である。これは当初よりある程度予想されたことであり、細胞内反応では、細胞の種類、周期、ARCUT の導入方法、導入時期など数多くのパラメーターが複雑に相関しているようである。しかし、これまでの検討過程で、これらのパラメーターを系統的に変化して相同組み換え効率を評価してきた。今後は、得られた基礎的知見を有機的に組み合わせ、本プロジェクトの研究期間の終了時までには、安定した効率で相同組み換えを引き起こす系を確立する予定である
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は全体的にはほぼ順調に進行している。しかし、ARCUTのヒト細胞内での応用に関しては解決すべき課題もまだ残っている。そこで、2つの観点から研究をさらに進め、ゲノムのマニピュレーション技術として確立する。 ・ARCUT応用技術の確立 (1)ヒト細胞から抽出したゲノムDNAを所定位置で切断し、所定断片を入手する手法を確立する。ゲノム切断に関しては一応完成段階にあるので、断片を効率的にかつ純度良く分離する方法を追究する。また、テロメアと対象としてゲノムの所定断片の取得の有用性を具現化する。(2)DNA結合タンパク質やnon-coding RNAの結合したゲノム断片の取得とその解析を行う。ヒト細胞をホルムアルデヒドで処理し、タンパク質やnon-coding RNAをゲノム中の特定のDNA領域に固定化し、この近傍をARCUTで切断することでゲノム断片との複合体を入手する。この複合体を分離後、質量分析等で解析してゲノム中のどの場所にどのようなタンパク質がどの時点で結合するかに関する詳細情報を明らかにする。(3)ARCUTによって誘導される相同組換え効率は、細胞の種類や細胞周期、ARCUTの導入時期、導入方法をはじめとする様々な要因に大きく依存することも分かり、これがARCUTの本格的な実用化の障害となっている。考えられる要因のそれぞれが組換え効率に与える影響を明らかにしてきたので、今後はこれらの結果を総合的に評価し、組換え効率の安定制御を実現する。 ・第2世代ARCUTの確立 すでに、細胞内での認識能・切断能の向上、認識・切断配列の拡張、さらにはCe(IV)錯体のARCUTへの固定化による副反応の抑制 に成功している。残された期間でもさらに研究を重ね、ゲノムのどの場所でも、どのような条件でも効率よく切断できるツールの確立に努める。
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Research Products
(25 results)