2013 Fiscal Year Annual Research Report
スーパー制限酵素を用いたゲノム・マニュピュレーション工学の創成
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22000007
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
小宮山 眞 筑波大学, 生命領域学際研究センター, 教授 (50133096)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
徐 岩 宮崎大学, 医学部, 准教授 (40506763)
伊藤 靖浩 東京大学, 分子細胞生物学研究所, 助教 (50508108)
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Project Period (FY) |
2010-04-21 – 2015-03-31
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Keywords | ゲノム編集 / 相同組換え / ペプチド核酸 / セリウム / 人工酵素 / バイオテクノロジー / 核酸 / 制限酵素 |
Research Abstract |
本研究によるゲノムの操作は、細胞内と細胞外の操作に大別され、それぞれで得られた結果は以下の通りである。 細部内の操作に関しては、スーパー制限酵素(ARCUT)を用いた遺伝子変換(変換の前後でDNAの長さの変わらない変異の導入)に加えて、数百塩基対以上の長さを持つ遺伝子を挿入することを試みた。具体的には、ARUCTを用いて細胞外でプラスミドDNAを切断し、切断産物をネオマイシン耐性遺伝子(約1.6kbp)あるいは赤色蛍光タンパク質遺伝子(約750bp)を持つドナーDNAと共に細胞内に導入した。その結果、プラスミドDNA中へ各遺伝子が効率的に挿入され、ARCUTによる切断は遺伝子挿入の促進にも有効であることが明らかになった。 細胞外の操作に関しては、細胞をホルムアルデヒド処理することで調製したクロマチン構造を維持したDNA―タンパク質複合体に対してARCUTによる切断を試みた。しかし、ゲノムDNA切断の際に観測されたような明確な切断産物は確認されず、さらなる条件検討が必要であることが判った。また、ビオチン修飾されたペプチド核酸(PNA)を用いてプラスミドDNAを切断し、ここへ全ゲノムDNAを添加した系(ビオチン修飾PNAを用いたゲノムDNA切断後の環境を再現したモデル系)に対して、ビオチン―アビジン結合を利用して目的DNA断片のみを数万倍以上に濃縮することに成功した。この系は、目的DNA部位で切断が生じた時点で、ビオチン修飾PNAが目的DNA断片と相補的な水素結合により結合しているため、極めて容易に断片を回収することが可能である。この結果は、本系が、「DNAの特定部位の塩基修飾を解析するためのツール」や「ゲノム中のどの場所にどのようなタンパク質がどの時点で結合するかに関する詳細情報を得るツール」として活用できる可能性を示すものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ARCUTの細胞外での応用については、着実な進展が見られた。特に、ビオチン修飾PNAを用いてゲノムDNA中から特定の目的DNA断片部分のみを切り出し、これをビオチン―アビジン結合を利用して精製する技術の開発に目処がついたことは特筆すべき成果であり、関連科学に大きなインパクトを与えられるはずである。すなわち、従来法では「特定のタンパク質がゲノムのどこに結合するか」が解析できるだけであったのに対し、本研究では、例えば、「特定のガン関連遺伝子の発現に際してどのようなタンパク質がどのように結合するか」が直接に明らかにできるので、従来法とは異なる次元の重要情報が提供できるはずである。もちろん、「ゲノム中の特定のDNA領域にどのような修飾が施されているか」といったエピゲノムを詳細に検討する際にもARCUTは有効なツールとなり得る。 細胞内での応用に関しては、ARCUTによるDNA切断が目的部位への遺伝子挿入を促進するなどの新たな知見が得られており、研究の基礎的な部分での進展はみられた。しかし、研究進捗評価においても「組み替え効率が低いことについては、今後、細胞周期の考察を含めて改良を行い、第2世代のARCUT開発などが必要である」との指摘があるように、そのゲノムへの変異導入や遺伝子挿入の効率はまだまだ満足のいくものとはいえない。本プロジェクトの研究期間の終了時までには、これまでに得られた基礎的知見を有機的に組み合わせ、高い再現性で効率よく相同組換えを引き起こす系を確立する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
・細胞外での応用 ゲノム中からのDNA断片の精製に関する予備的な結果(研究実績の概要の項を参照)を発展させ、ヒト細胞から抽出したゲノムDNAを所定位置で切断して、所定断片を回収する手法を確立する。また、細胞をホルムアルデヒド処理することで得られるタンパク質やnon-coding RNAが固定化されたゲノムDNAから、タンパク質やnon-coding RNAと所定DNA断片との複合体を入手する方法へと発展させる。さらに、得られた複合体の架橋を外し、そこから得られたDNA、タンパク質、RNAのそれぞれを質量分析する。こうして、ゲノム中のどの場所にどのようなタンパク質がどの時点で結合するかに関する詳細情報を得る。得られた情報は、これまでに広く用いられている免疫沈降法と相補うものであり、関連分野の発展に大きく寄与することが期待される。 ・細胞内での応用 相同組換えの効率は実験ごとに相当に大きく異なり、本格的な実用化の障害である。そこで、これまでに得られた結果を総合的に評価して組み換え効率の安定的な制御を実現する。さらに、BFPをGFPに変換する相同組換えだけではなく、ヒト細胞に内在する遺伝子をターゲットとした相同組換えを検討し、ゲノム内における遺伝子周辺の構造や環境の差異の影響を明らかにする。一方、ヒト以外の細胞を新たな対象として選択し、ARCUTによる相同組換えに対する基礎的知見を蓄積するとともに本手法の汎用化を目指す。さらに、ARCUTを将来的に幅広く活用していくために、Ce(IV)錯体のARCUTへの固定化による副反応の抑制についても、残された期間で研究を重ね、ゲノムのどの場所でも、どのような条件でもなお一層効率良く切断できる化学ツールの確立に努める。
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Research Products
(14 results)