2012 Fiscal Year Annual Research Report
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22224006
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Research Institution | The Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
加藤 礼三 独立行政法人理化学研究所, 加藤分子物性研究室, 主任研究員 (80169531)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
田嶋 尚也 東邦大学, 理学部, 准教授 (40316930)
山本 浩史 分子科学研究所, 物質分子科学研究領域, 教授 (30306534)
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Project Period (FY) |
2010-05-31 – 2015-03-31
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Keywords | 分子性導体 / 強相関電子系 / ディラック電子系 / 電界効果トランジスタ / 光誘起相転移 / モット転移 / 電荷秩序 / 圧力効果 |
Research Abstract |
エチル-4-ブロモチアゾールを対カチオンとするNi(dmit)2アニオンラジカル塩を合成し、結晶学的に独立な二つのアニオン層内でのスピン間相互作用が、分子配列の違いによって、一方は反強磁性的、他方は強磁性的であることを明らかにした。これは、分子性モット(Mott)絶縁体で、強磁性相互作用が出現し、しかもスピン分極によって強磁性を示した最初の例である。さらに、この物質が 圧力下で大きな負の磁気抵抗効果を示すことを見出した。 強相関π電子系の歪み制御を行い、超伝導相とモット絶縁相とで構成される双安定状態を実現することに成功した。このような状況においては、微少な外場に対して系が大きく応答することが期待できるため、ゲート電圧によるキャリア注入を行ったところ、超伝導状態と絶縁状態を可逆的にスイッチできることが明らかとなった。 多層ディラック電子系であるα-(BEDT-TTF)2I3へ接触帯電法というユニークな手法でキャリアを注入し、ディラック電子系に特有の量子磁気抵抗振動と量子ホール効果を観測することに初めて成功した。つまり、ディラック電子系の特徴である、ベリー位相πを含むSdH振動と充填率ν=±4(n+1/2)に半整数の因子が存在する量子ホール効果をそれぞれ観測した。これは、多層系量子ホール効果の物理の進展に大きく寄与するものである。 超分子相互作用を分子性導体へ導入する試みの中で開発した、分子性金属(BEDT-TTF)3Br(pBIB)における光電子分光測定で、フェルミ端の観測に成功した。通常の金属においてフェルミ端が存在するのは常識であるが、これまで分子性導体においてフェルミ端が観測された例はなかった。これによって、従来の金属において多大な蓄積がなされてきた電子状態研究の方法論が分子性導体に対しても有効であることが、世界で初めて証明された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
1.強磁性と反強磁性とが共存するデュアル機能π電子系の発見、2.超高圧による単一成分分子結晶Ni(dmit)2の金属化と第一原理計算による高圧下電子状態の解明、3. 伝導度と透過率の同時測定による光誘起絶縁体-金属転移の観測、4.電場誘起超伝導の実現、5. 多層ディラック電子系における量子ホール効果の観測は、当初の目標に見合う進展である。特に、4と5を達成できたことは、今後のさらなる発展を考えると、非常に大きな意義がある。 一方、「π電子系金属におけるフェルミ端の観測」と「π電子性Valence bond秩序系におけるモット転移の異常な臨界指数」に関しては、予定以上の成果と言える。前者は、超分子相互作用を利用した物質開発から、励起光照射によるラディエーションダメージに強い分子性導体が得られたことが端緒となったが、その背景には、世界最高性能の光電子分光装置を有する東大物性研究所の辛グループとの長年にわたる共同研究があった。さらに、これも長年折に触れて議論を続けていた、物質・材料研究機構の宮崎グループが加わったことによって、理論と実験の両面からπ電子が形成する「金属」の最も基本的な性格が明らかとなった。後者は、ダイヤモンドアンビルセルを用いて発生させる超高圧とはいわば対照的な存在である、Heガスによる超精密に制御された圧力を、自己組織化π電子系の一種であるValence bond 秩序系におけるモット転移へ適用して得られた成果である。これは、以前よりμSR測定で共同研究を行ってきた英国Rutherford-Appleton 研究所の理研RALミュオン施設で開発されたガス加圧式輸送現象測定装置を使用できる機会が与えられために可能となった。本装置は、結晶格子が柔らかく圧力に敏感なπ電子系研究に最適であり、本成果はそれを証明することになった。
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Strategy for Future Research Activity |
科学的観点からの大きな問題は生じていない。申請時に困難が予想されていた点(特に、モットFETにおける基板の選択、多層ディラック電子系へのキャリア注入法、ダイヤモンドアンビルセルにおける発生圧力と静水圧性の向上等)に関しては、着実に克服できている。また、Bi-layer系の物質探索によって、新しいデュアル機能π電子系を発見することができた。さらにその過程で、初めてフェルミ端の観測に成功した分子性金属(BEDT-TTF)3Br(pBIB)を合成することもできた。ただし、申請前に発見したデュアル機能π電子系(Me-3,5-DIP)[Ni(dmit)2]2のサイクロトロン共鳴(CR)の観測には未だ成功していない。これについては、25年度以降に、より低温条件での測定が可能となるように装置を改良する予定である。 平成25年度以降は、基本的には当初の研究計画・方法に沿ってπ電子系の物質開発・物性評価を継続していくと同時に、新たに進展した研究項目・手法(光電子分光、第一原理電子状態計算、Heガスを用いた超精密圧力制御)も取り入れて、多様なアプローチを行う。
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[Journal Article] Quasiparticles and Fermi Liquid Behaviour in an Organic Metal2012
Author(s)
T. Kiss, A. Chainani, H. M. Yamamoto, T. Miyazaki, T. Akimoto, T. Shimojima, K. Ishizaka, S. Watanabe, C.-T. Chen, A. Fukaya, R. Kato, and S. Shin
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Journal Title
Nature Communications
Volume: 3
Pages: 1089/1-6
DOI
Peer Reviewed
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