2011 Fiscal Year Annual Research Report
初期太陽系における鉱物ー水ー有機物相互作用:惑星と生命起源物質初期進化
Project/Area Number |
22224010
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
永原 裕子 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (80172550)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
橘 省吾 北海道大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (50361564)
海老原 充 首都大学東京, 理工学研究科, 教授 (10152000)
寺田 健太郎 大阪大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (20263668)
伊藤 正一 北海道大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (60397023)
薮田 ひかる 大阪大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (30530844)
岡崎 隆司 九州大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (40372750)
野口 高明 茨城大学, 理学部, 教授 (40222195)
中村 智樹 東北大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (20260721)
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Keywords | 初期太陽系 / 鉱物 / 水 / 有機物 / 隕石 / 宇宙塵 / 分析 / 実験 |
Research Abstract |
平成23年度時,走査電子顕微鏡および透過顕微鏡にトラブルが多発し,南極雪の濾過産物から雪微隕石を抽出する作業およびその特徴を記述する作業そのものに大きな困難が発生した.それら機器の修理を重ね,平成24年時にはカタログ作りが大幅に進展した.その結果,これまでに200以上の微隕石を抽出でき,それらを組織により分類する作業も進展した.この中から,特異的に大きく炭素に富む微隕石につき,集中的・系統的な研究を重ね,C/N/O組成はWild2彗星塵とよく類似する組成であり,非晶質珪酸塩や硫化鉱物を含むことなどから彗星塵であることを明かとした.しかしながらそれら元素同位体には重元素濃縮はなく,分子雲に直接由来するものではなく,原始太陽系円盤における有機物形成の可能性があること,他の手法による彗星塵とは異なり,きわめて始原的な情報が残されていることを示した.この発見は,これまでの宇宙始原物質研究において特筆すべき重要な物質をわれわれが見いだしたことを意味している. 本研究のもう一つの重要な柱であるフォワードなアプローチとしての実験・モデルについては,非晶質珪酸塩のガス反応を進めたが,予測した条件下で,非晶質ガラスの加水反応による層状珪酸塩鉱物の形成はおこらなかった.理由として,非晶質物質という一義的に構造が決定している物質と異なり,非晶質の実態が多様でありうること,非晶質珪酸塩の熱力学的定数として入手しているものが同様の理由からわれわれの実験に用いている物質と異なることが考えられ,対策を考慮中である.有機物形成母体としての層状珪酸塩形成のデータは得られていないが,原始惑星系円場の温度変化に応じた物理科学反応の定式化をほぼ完了している.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本計画は初期太陽系における有機物進化を実証的なアプローチとフォ ワードなアプローチの両面から検討し,統合的な理解を目指している.実証的アプローチとしては,これまでの本研究により,200個 程度の地球外粒子を発見し, SEM-EDS 分析によるカ分類・タログ化を終了した.その中から1個だけ,従来発見されたことのない巨大かつ炭素に富む物質を発見し,上 述の包括的な分析から,彗星塵の一種であり,これまで発見のされたことのない始原的な物質であることを明らかにした.その特徴は,彗星に おける水質・熱変成度が著しく低いことであり,すなわち原始太陽系星雲における有機物の痕跡をとどめていることである.そのほかの微隕石 は,多様な程度の水質・熱変成を被っており,彗星におけるそれら化学作用の推定に情報を与えるため,それらの継続的な研究も進めている. さらに,原始太陽系円盤における物質移動による固体物質の変化を記述する一般的モデルの開発も終了し,個別成分を取り込んだもでるへの拡 張段階にある. 以上のように,本研究では基本的な流れは予定通りに進んでおり,特異 的に重要な物質の発見にもいたっている. しかしながら,本研究の2年 目である平成23年 度は,物質分析の最初の重要な処理をおこなうFIB装 置が導入直後に東北沖地震により使用開始がおくれたこと,その後もトラブルが頻発したことから,大量の微隕石の処理は当初予定より遅れて いる.当該装置はその後もトラブルが絶えないため,この遅れを取り戻すことはきわめて困難であるが,濾過・FIB 作業に技術補助を 雇用して最大限の努力を続けている.このために,原始太陽系星雲における有機物進化,特に有機物形成における無機物の役割を全面的に評価 するにはいたっておらず,予定以上に進んでいるとまでは言い難い.
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Strategy for Future Research Activity |
今後の計画は以下のようである. 第1に、南極雪微隕石カタログ化の継続:平成25年度は新規の雪の入手が予定されており,濾過,微隕石抽出,カタログ化を継続する.このためにはFIBの順調な使用が前提となるが,導入以来この装置はきわめて故障が多く,今後においてもトラブルを避けることは困難と思われる.修理による逐次対応しかありえない.第2に、彗星における水質変成・熱変成の解明:これまでに抽出した微隕石のうち,すでに研究をほぼ完了しているものをのぞき,有機物を含むものにつき詳細研究をおこない,有機物と無機物の反応関係を明らかにする.当該の研究については特に障害となるものはないと考えられる.第3に、彗星における変成作用の解明:その他の微隕石につき,微量元素・年代・同位体・希ガスなどの総合的な研究をすすめ,有機物に特化しない,宇宙における物質進化の一般的理解に寄与する.本内容についても,特に想定される問題は存在しない.第4に、前年度までに明らかにした特異な有機物につき,その成因に関する論文を投稿する.第5に、原始惑星系条件における有機物と円盤ガスの反応実験:原始惑星系円盤において気相-固相反応による有機物形成を特にFT反応に着目し,その生成物と形成条件を決定する.第6に、原始惑星系円盤における物質移動と化学進化モデル構築:既存のモデルに,低温における化学反応速度を組み込み,有機物進化がどのように進行するかを記述するモデルを構築する.
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