2013 Fiscal Year Annual Research Report
日本企業における内部労働市場の形成と拡大と縮小:人的資本投資の歴史的比較静学
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22243022
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
中林 真幸 東京大学, 社会科学研究所, 准教授 (60302676)
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Project Period (FY) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 経済史 / 経営史 / 企業理論 / 産業組織 / 比較制度分析 |
Research Abstract |
中林真幸が責任者を務める実証分析班においては、製鉄企業の内部労働市場の分析を進める中林、教育投資の経済効果を分析する田中隆一、筑豊炭鉱労働市場における相互紹介網(referral hiring network)の分析に取り組む酒井真世、企業における女性労働の活用を分析する川田恵介を始めとして、所期の進捗が達成された。石黒真吾が責任者を務める理論分析班においても、松村敏弘は寡占市場における企業行動の分析を進め、佐々木弾も経営者と労働者の間の効率的な意思伝達のあり方を模型化するなど、期待された進捗が見られた。 研究会の開催 本計画は、様々な分析手法を用いる連携研究者が、相互に成果を持ち寄り、十分な時間を割いて互いの研究を発表し合うことにより、互いの方法を学ぶと共に相手の分析に新たな手がかりを与えることを通じて、補完的に生産性が高まることを期待している。そうした試みの柱となるのは、学期中に大阪大学大学院経済学研究科において毎回2名の報告者を立てる月例研究会と、夏春の長期休暇中には東京大学社会科学研究所において開催される国際会議である。「制度と組織の経済学」研究会として開催されるこれらの会合については、その日程および報告者の選定を前年度末から年度初においてほぼ確定し、HP上に公示されており(https://sites.google.com/site/theoeio/)、計画性と公開性を十分に担保しつつ、研究計画を進めている。 研究代表者担当部分の実績概要 計画全体を代表して中林の実績概要について述べておく。製鉄企業の内部労働市場を分析する中林は、1930-1960年代の製鉄企業内部労働市場における賃金動態の理論的、実証的な分析に取り組み、Econometric Society North American Winter Meeting 2014を始め主要学会においてその成果を報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
研究代表者担当部分の実績概要 計画全体を代表して中林の実績概要について述べておく。得られた成果は大きく二つに分けられる。第一は、労働者の勤続にともなって、企業側が、その真の能力を学習してゆく過程を分析する「雇用者の学習」に関する成果である。賃金動態に反映される「雇用者の学習」効果を分析する従来の研究は、賃金動態に同時に反映される労働者の技能獲得を明示的に取り扱わず、雇用者の学習効果にのみ焦点を当ててきた。本計画においては、労働者の技能獲得と雇用者の学習とがどのように賃金動態に反映されるのかを同時に捉えることを目的として、分析を進めた。第二は、日本における内部労働市場の形成過程を解明しようとするものである。新卒一斉採用と不活発な中途採用市場、そして長期雇用に代表される、いわゆる日本的な雇用慣行が、現業労働者を含めて定着した時期については、かねてより論争があったが、本研究によれば、少なくとも、1960年代末まで、大企業の現業労働者採用において、中途採用は重要な経路であり続けた。しかし、一方、内部労働市場のあり方が一定であったわけではない。分析対象企業に入職する前の職業経験年数と就学年数の収益を比較すると、1930年代に高い水準を示した後者は1940年代後半以降、急落する一方、同時期に教育収益が急上昇を始める。そして、分析企対象企業における勤続年数の収益も、教育収益と全く軌を一にして上昇し始める。このことは、戦後における中等教育の拡大にともなって、一般的な技能を獲得する場としての役割において、学校が職業経験にとって代わったことを示唆している。一方、勤続収益の上昇が、教育収益の上昇と軌を一にしていることは、長期雇用につながる勤続収益の上昇が、必ずしも企業特殊的な人的資本の収益の上昇ではなく、学校教育と大企業内訓練との補完性によって生じた可能性を示唆している。
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Strategy for Future Research Activity |
全体の推進方策 実証分析班は平成25年度までに整備を完了したデータベースの分析をさらに進める。その際には、理論班連携研究者との議論を重ねた理論的な深化が特に重視される。理論分析班は個別研究の中間的な成果をまとめつつ、実証分析班との共同研究を進める。 中間成果の公表 個別作業の中間成果が引き続き公表される一方,実証分析班と理論分析班の成員から成る各単位の中間成果もまとまり次第、公表される。 研究会議の開催日程 最終年度である平成26年度において、これまで得られた成果を相互に交換するとともに、関連する外部研究者との議論を深めることはますます重要となる。平成26年度の「制度と組織の経済学」月例研究会は日程、報告者ともほぼ確定され、公示されている(https://sites.google.com/site/theoeio/)。研究会議についても、例年同様、若壮年の研究者を主体としつつ、海外の指導的な研究者を招聘することが確定している。これまでと同様、本計画内部の研究者と招聘研究者の高い補完効果が期待される。 研究代表者担当部分の推進方策 研究組織を代表して研究代表者の推進方策を具体的に述べておく。中間成果は、International Industrial Organization Conference 2014、Society of Labor Economists Annual Meetings 2014、Annual Conference of the International Society of New Institutional Economics 2014における発表採択を得ており、それらの学会において得られる反応を踏まえて研究を完成させる予定である。
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Research Products
(66 results)