2011 Fiscal Year Annual Research Report
クロム酸化物における強磁性金属-絶縁体転移の機構解明と新奇量子物性の探究
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22244041
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
上田 寛 東京大学, 物性研究所, 教授 (20127054)
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Keywords | 強相関電子系 / 物性実験 / クロムホランダイト / 電磁気物性 / 金属絶縁体転移 / 構造相転移 / マンガンホランダイト |
Research Abstract |
ホランダイト型クロム酸化物K2Cr8O16は180 Kで金属強磁性転移を示し、95 Kでさらに強磁性を維持したまま絶縁体に転移する。本研究はこの強磁性金属―絶縁体転移の機構解明を目的としている。前年度において、単結晶を用いた放射光X線回折測定を行い、低温絶縁体相では、結晶系が正方晶I4/mから単斜晶P21/aに歪み、電荷分離・秩序はないが、CrO6八面体からなる1次元鎖の4本で作られる4本鎖カラムにおいて特徴的な格子の2量体化を観測した。本年度は、詳細な構造解析を行うとともに、第一原理計算による電子構造計算を行い、構造解析の結果と合わせて、K2Cr8O16はこの4本鎖カラムを基本とする擬1次元電子系であり、1次元電子系に固有のパイエルス不安定性により絶縁化する機構を解明した。また、絶縁化しても強磁性が維持される機構も解明した。 関連研究として、マンガンホランダイトの高圧合成と構造・物性の評価を行い、マンガンホランダイトの場合、トンネルを占めるカリウム間の距離が近すぎ、6GPaまでの圧力範囲では最大K1.6Mn8O16までの組成を持ったものしか合成できず、反強磁性絶縁体であることが判明した。K1.6Mn8O16は逐次構造相転移を示し、低温側の転移ではトンネル方向に5倍の超周期が現れる。K1.6Mn8O16において、K-空格子点の割合は1/5で、5倍周期は、K-空格子点が長距離規則配列することにより生じるもので、その場合、K-空格子点近傍のMnにeg-電子がトラップされMn3+となるため、Mn4+とMn3+の電荷分離・電荷秩序も起こることも明らかにした。K-空格子点の短距離秩序は室温以上ですでに起きていることも電子線回折実験で判明した。従って、室温以上ですでにK-空格子点近傍のMnにeg-電子がトラップされ電荷分離が生じているため絶縁体であると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
クロムホランダイトK2Cr8O16は180 Kで金属強磁性転移を示し、95 Kでさらに強磁性を維持したまま絶縁体に転移する。本研究はこの強磁性金属―絶縁体転移の機構解明を目的としている。これまでに、単結晶を用いた放射光X線回折測定による詳細な構造解析と第一原理計算による電子構造解析を行い、K2Cr8O16は、CrO6八面体からなる1次元鎖の4本で作られる4本鎖カラムを基本とする擬1次元電子系であり、この新奇な強磁性金属―絶縁体転移は、1次元電子系に固有のパイエルス不安定性により起こるすなわちパイエルス機構により起こることを解明した。この4本鎖カラム1次元電子系におけるパイエルス転移では、1個の過剰電子が4つのCr4+に共有される(Crの4量体化)ため、Crの原子価はCr3.75+のままで絶縁化しても電荷分離・電荷秩序が起きないこと、また、小さなギャップが強磁性バンドに開くだけで、強磁性に影響を及ぼさず、絶縁体相でも強磁性が維持されることも明らかにした。 以上、初めて観測されたクロムホランダイトにおける強磁性金属‐強磁性絶縁体転移の機構を完全に解明することができ、(1)当初の計画以上に進展している、に該当する。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、高圧下での物性測定を行い、K2Cr8O16の圧力―温度電子相図を明らかにするとともに、核磁気共鳴測定により微視的電子状態を明らかにする。 また、発展的研究として、Aurivillius相新規物質Bi4Cr2O10およびBi4V2O10の開発を行い、その伝導性や磁性の評価を行う。他に、Cr4+の新規酸化物の開発を行う。
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Research Products
(14 results)