2012 Fiscal Year Annual Research Report
日本を含む外来権力の重層下で形成される歴史認識-台湾と旧南洋群島の人類学的比較
Project/Area Number |
22251012
|
Section | 海外学術 |
Research Institution | Tokyo University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
三尾 裕子 東京外国語大学, アジア・アフリカ言語文化研究所, 教授 (20195192)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
遠藤 央 京都文教大学, 公私立大学の部局等, 教授 (10211781)
飯高 伸五 高知県立大学, 文化学部, 講師 (10612567)
植野 弘子 東洋大学, 社会学部, 教授 (40183016)
松金 公正 宇都宮大学, 国際学部, 教授 (50334074)
上水流 久彦 県立広島大学, 公私立大学の部局等, 講師 (50364104)
石垣 直 沖縄国際大学, 公私立大学の部局等, 准教授 (60582153)
西村 一之 日本女子大学, 人間社会学部, 講師 (70328889)
|
Project Period (FY) |
2010-04-01 – 2014-03-31
|
Keywords | 代行的脱植民地化 / 重層性 / 文明化の使命 / 日本 / 中華 / アメリカ |
Research Abstract |
今年度は、国内で研究会や研究打ち合わせを行った他、メンバー各自のフィールドでの調査研究を深化させ、データを集中的に収集し、最終年度の取りまとめに向けての方向性を明確にしていくことを目標とした。3月には日本オセアニア学会で分科会「旧南洋群島と台湾における日本イメージの形成~植民地支配に関わるモノを通じて」を組織し、本科研の成果の一部を世に問うた。 各メンバーの調査研究の概略は以下の通りである。 代表者の三尾は、台湾で植民地期の日本人と現地の人々の関係性についてインタビュー調査を行った。分担者の植野は、「台湾の日常生活に見る〈日本〉発の近代的産物の受け入れと戦後におけるそれらの継続と断絶」をテーマとして、日本語世代の人々にインタビューを行った。上水流は、歴史遺産をテーマに、台湾とパラオの比較研究のための資料収集を現地で行った。西村は建造物や漁撈技術など日本植民統治期の「遺産」が観光領域において利活用されている現象、漁撈技術を持つ漁民たちの「日本」認識、戦前戦後の統治システムの転換を経験した人々にとっての「日本」認識について、漢人と原住民アミを対象に現地調査を行った。遠藤は、パラオをメインとしながら、台湾での現地調査も行って、両地域における「日本」認識の比較を行った。飯高は、パラオにて日本統治期の鉱山採掘が地域社会に与えた影響、および近年の観光開発に関する現地調査を実施した。松金は、引き続き日本及び台湾で仏教布教に関する南洋・台湾関連の歴史文献調査を行った。連携研究者の宮岡真央子は、台湾の原住民に関して、日本認識に関係する聞き取り調査を行った。研究協力者の今泉裕美子は、旧南洋群島に関する歴史学的視座から調査を行った。そのほか、若手の研究協力者(三田牧、黒崎岳大、林虹瑛、藤野陽平、山西弘朗)も、文献調査や現地調査を行った。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
台湾、旧南洋群島に関する植民地主義、ポスト植民地主義に関する人類学的な比較研究は、従来殆ど行われてこなかった。このため、本研究では、初年度と2年度に夫々の地域を専門とする研究者が、フィールドに相互乗り入れする形で調査を行う方法を取った。また、初年度には、台湾で研究会を開催し、現地の研究者と研究枠組みについて、議論を行った。これらの活動は、ともに日本による支配を受けながら、様々な歴史的、社会的条件の異なる2つの地域が、植民地化や脱植民地化においていかなる共通点、相違点を持っているかに関して基本的な理解を得る上で大変効果的であった。 3年度目の平成24年度は、こうした相互乗り入れによって得た比較の視座を踏まえながら、原則としてそれぞれの参加者が各人のメイン・フィールドを中心としながら、それぞれの研究課題を掘り下げる現地調査を行った。調査計画としては、当初の見込み通りの進展を見せていると考えられる。 上記3年間の研究によって、以下の点が明らかになってきた。例えば、植民地期、脱植民地期におけるいわゆる「ローカル・エリート」層の形成のあり方は、台湾と旧南洋群島でははっきりとした違いがみられることがわかってきた。また、「日本」認識については、台湾漢民族社会では、「日本」が脱植民地化過程において、利活用される資源となっているが、台湾先住民社会では、「日本」的なものは、いまだに植民地主義的な意味を発信し続けている。それと比べると旧南洋群島では、「日本」はむしろ、放置され無価値化されているといった対比ができると考えられる。この点については、3月に「日本オセアニア学会」での分科会で発表したが、今後、比較をより精緻なものにしていきたい。 最終年度にあたる平成25年度は、上記のような論点について、補充調査を行い、海外の研究者を交えた研究会なども行って、最終的な成果を導き出して行く予定である。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成25年度は、本科研の最終年度に当たるため、研究成果の取りまとめを行うことが最重要課題である。これまでの調査や成果の発表などによって明らかになってきた問題点に関し、補充調査によって資料を蓄積していく。具体的には、日本の教育を受けたり、日本人との婚姻によって生まれた子孫などが現地社会においてローカルエリートとして果たした役割が、当該地域社会の社会・文化の構築とどのような関係性を持っているのか、また、戦後の中国やアメリカの存在が両地域の社会形成や脱植民地化にどのような影響力を及ぼしているのかなどが、調査の対象となろう。 最終的な研究成果をまとめるにあたっては、日本による植民地支配、戦後における別の外来権力による代行的な脱植民地化がもたらした社会・文化の変容、宗主国に対する認識の特徴をより明らかにすることが重要である。このために、英仏などの植民地主義、脱植民地主義に関する研究を行っている研究者を招へいして、議論を行う予定である。 以上を踏まえ、年度末に論文集などの形で成果をまとめるための研究会、草稿の執筆などを行っていく予定である。
|
Research Products
(23 results)