2013 Fiscal Year Annual Research Report
思春期女子における骨粗しょう症のリスク軽減と予防に関する遺伝栄養学的研究
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22300265
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Research Institution | Kyoto Gakuen University |
Principal Investigator |
瀧井 幸男 京都学園大学, バイオ環境学部, 客員研究員 (70154937)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
關谷 次郎 京都学園大学, バイオ環境学部, 教授 (10035123)
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Project Period (FY) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 思春期女子 / 腸内環境 / 乳酸菌 / 遺伝素因 / 骨密度 / ミネラル因子 |
Research Abstract |
思春期女子は初潮、生理などのストレスを受けやすく、第二の脳とも称される腸管免疫系が大きい影響を受ける。さらに妊娠・出産により歯周組織の骨量成分が可溶化し閉経期には骨粗しょう症発症リスクを負うことがある。そのため遺伝的な体質と食生活・運動習慣に関わる環境因子が交互して発症する潜在的な多因子生活習慣病予備軍となりうる。 本研究では思春期女子に対して、カルシウム及びGABAを含有する乳酸菌(NSB1)発酵食品摂取による介入試験を実施した。ビタミン受容体(VDR)遺伝子BB型とLRP5変異ホモ型の遺伝素因を合わせ持つ被験者が2.0%存在したが、小魚、海草などカルシウム高有食を歓迎しない被験者に便秘に悩む傾向がみられた。便秘群女子に対して乳酸菌発酵漬物を用いる2週間の継続摂取試験を供したところ、予想に反し滅菌処理した乳酸菌死菌試験食群にNKキラー細胞活性の昂進と便秘症状の改善がみられ、非加熱乳酸菌摂取群にはまったく効果がみられないことが判明した。また血清内IgM濃度やIgG濃度においては死菌・生菌摂取群間による有意差がみられなかった。 NSB1は50℃で生育する点でL. buchneriとは異なっており、基準株JCM1115株に対し、99.8%の高い相同性を示した。さらに上位基準株10株の16S rDNA塩基配列に基づく簡易分子解析の結果、L. buchneriとクラスターを形成し、93%の高いブーストラップ値であったが、NSB1と基準株の塩基配列間には4塩基の相違点(G→A、C→T、C→T、T→C)が認められたため、最終的に、NSB1はL. buchneriに最も近縁な乳酸菌 NCCB100334としてオランダの公式機関に寄託された。 以上の結果、新規な乳糖分解乳食品によりカルシウムを継続的に摂取し、腸内改善と便秘解消に役立つGABAを腸内で機能させ、乳糖不耐症者でも乳製品を安心して摂取できる一石三鳥の社会的貢献度の高い機能性食品素材が実現した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
難溶性カルシウムを含有する食品は、ヒト腸内への吸収が効率よく行われて初めてその効果を発揮する。今回の研究で採用したGABA含有漬物ではdead cell含有試験食群のみが免疫細胞キラー(NK)活性を亢進するとともに、便秘に悩む被験者にも飛躍的な便通改善効果をもたらした。一方、乳酸菌生菌摂取群及び乳酸菌を含まない試験食群では統計学的に有意な効果は見られなかった。 かかる健康増進効果は予想以上の成果であり、被験者女子が意識的に日々三度の食行動を見直す最良の「食育」となった。NK活性は少なくとも5種以上のヒトの免疫グロブリンによる制御機構以外の機構のうちもっとも重要で直接的な生体防衛システムを構成しているが、この亢進効果が滅菌済みのdead cellでのみ可能となることが初めて提示されたケースであり、将来のサプリメント創製に途を拓くことが示された。何故なら食の安全と安心の立場から、滅菌処理することにより病原性微生物の混入を完全に排除した安全な乳酸菌発酵食品として、格好の「安全食モデル」となりえるからである。 軽度の継続性運動では、骨量遺伝子(LRP5)異常型ホモタイプに属する女子被験者においても、その骨量形成によい相関関係をもたらすことが示されているので、継続性の定期的排便行動を加算できれば、腸の蠕動を促す食行動が完成されることになる。 その結果、これまでの研究成果である骨密度関連遺伝子群(AGRP, UCP2, PPARY)と密接にリンクさせるとともに、腸内蠕動運動にかかわる腸内フローラ、特にビフィズス菌などの生息状況をスクリーニングするシステムを開発する可能性を踏まえたヒト腸内の微生物群の総合的解析が必須であることが提示された。
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Strategy for Future Research Activity |
ヒト腸内には、好気性・嫌気性・偏性嫌気性微生物など数百種に及ぶ細菌叢が定着していると同時に、腸管粘膜には全抹消リンパ球の約70%に相当する免疫系細胞が存在する。従って食物(脂肪含有)摂取を通じて分泌される胆汁酸分泌が細菌叢に及ぼす影響並びに小腸粘膜における外来物質(死菌体から漏出される成分)に対する特徴的な応答である免疫グロブリンIgAの役割を追及し、思春期女子が健康な骨組織母体を形成する食育を次年度の最大の目標に設定する。 牛乳やチーズ、ヨーグルトなどの乳製品を摂取する際、腸内代謝に異常をきたす乳糖不耐症は欧米白人では8%にすぎないが、東洋人種では85%にも達する。これはラクターゼ活性の強弱を握る遺伝体質に起因する。骨粗しょう症発症リスクの低減と強靭な骨格形成を図るには人生のできるだけ早期に継続的に摂取できるカルシウム含有基材食の登場、すなわち各自の遺伝素因に基づく食育を通して継続的に摂取できる乳製品食材の充実と供給が必須である。 乳酸菌NSB1発酵を用いて乳糖を低減もしくは除去した乳製品の創製と摂取により、小魚・海草等の摂取では達しえなかったミネラル吸収効率の増加と乳糖不耐症者が安心して食することができる新規な乳製品の実現が図られる。食育を通じて思春期女子が健康な食生活を充足できる「healthy way of life」への足掛かりとなる展開を推進していく。
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