Research Abstract |
平成22年度は,本研究の対象種であるリュウキュウアユ仔稚魚の生息域である河口域の生息環境に関して,マクロ的・ミクロ的視点でそれぞれ評価を行った.具体的には,衛星熱赤外画像を利用した河口域の水温環境の比較と,奄美大島において干潟域等自然状態の保持されている役勝川と,埋め立てによる人為改変を被った河内川における水温・塩分の連続観測,熱流動観測,及び餌資源であるカイアシ類の分布調査を行った.熱赤外画像(Terra/Aster)を用いた解析では,リュウキュウアユの過去/現在における生息河川では近傍河川に比べ,河口域の輝度温度が低いことが分かった.低水温域の形成は流入河川の流域面積,湾の形状(湾の閉塞度),卓越風向などにより決定されることが示唆された.水温・塩分濃度の現地観測結果から,役勝川河口域では対象種に好適な20℃以下の水温域が広範かつ長時間形成されるが,河内川河口域においては逆に,20℃以上の高水温が卓越することが明らかになると共に,別途生存試験結果をベースとした生存率推定結果からも役勝川では70%前後,河内川では30%前後の値を示し,生息域の優劣が顕著に現れた.対象域の水温環境は,河川水(約17℃)と海水(約21℃)の潮汐の入退や混合の状況に応じて時空間的に複雑に変化しており,淡海水の挙動を変化させる埋立等の水温環境を劇的に変化させることが示唆された.熱流動観測においては,干潟による水塊からの吸熱量は最大約60W/m^2の吸熱量が観測され,干潟面積が大きい場合対象種にとって有意な水温低下効果を示しうることが明らかとなった.さらに,餌資源であるカイアシ類の出現分布調査結果を考慮すると,対象種の出現分布は概ね餌資源分布と対応しており,河内川においては餌資源分布が密である場所において高水温・高塩分であり,河口の人為改変に伴う流動場の改変がカイアシ類の出現パターンを変化させることで生息環境に影響をもたらすことが示唆された.
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