2012 Fiscal Year Annual Research Report
物質・生命・人格をめぐる哲学と自然科学の交差に関する理論的および実践的研究
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22320003
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
一ノ瀬 正樹 東京大学, 人文社会系研究科, 教授 (20232407)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
信原 幸弘 東京大学, 総合文化研究科, 教授 (10180770)
高山 守 東京大学, 人文社会系研究科, 教授 (20121460)
榊原 哲也 東京大学, 人文社会系研究科, 教授 (20205727)
松永 澄夫 立正大学, 文学部, 教授 (30097282)
朝倉 友海 北海道教育大学, 教育学部, 准教授 (30572226)
鈴木 泉 東京大学, 人文社会系研究科, 准教授 (50235933)
松浦 和也 東京大学, 人文社会系研究科, 助教 (30633466)
DIETZ Richard 東京大学, 人文社会系研究科, 講師 (10625651)
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Project Period (FY) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 哲学 / 曖昧性 / 放射能 / 生命 / 物体 / 言語 |
Research Abstract |
一ノ瀬は、原発事故による放射能問題に関する考察を単著『放射能問題に立ち向かう哲学』として刊行した。また、Kripke Conference(北京大学)で「規則のパラドックス」に関して報告した。さらに、Probability and Vagueness Conference(東京大学)をディーツ講師と主催し、descriptivity/normativityについて発表し、日本イギリス哲学会のシンポジウムでバークリの数学論について発表した。松永は、知覚の成立を説明する生理学、脳科学における情報概念をコンピューター等における情報処理の概念と比較し、前者における情報概念使用の有効性の基盤を確認しつつ、情報概念使用は人々に共有される知覚世界の成立を前提することを明らかにした。高山は、人間の「自由」の内実を追求し、考察を深めた。信原は、人間的な振る舞いの有無を思考の有無の基準とするチューリング・テストを批判し、刺激・脳状態・行動から心的状態を特定する理論が三人称的な観点からの心の有無の確定に不可欠であることを明らかにした。榊原は、昨年度に引き続き、自然科学に基づく医学的なものの見方に対し、現象学的ケア論から「生命」および「人格」へのケアの諸相を考察した。鈴木泉は、スピノザとライプニッツを素材としつつ、様相の視点から物質・生命・人格の重層的連関を探求し、無意識の扱いを例にとって方法論的に検討した。ディーツは曖昧性の基礎付けに関する研究を進め、多くの発表を行った。朝倉は、近代ヨーロッパ哲学と東アジア近代哲学における「生命」概念の研究を進め、西洋哲学において自然哲学の伝統が持つ意味を再検討し、東アジア近代哲学での「物質・生命・人格」の理解がもつ特徴を浮かび上がらせた。松浦はソクラテス以前の自然哲学とアリストテレスの影響関係の考察から、古代ギリシアの物体観を析出する基礎研究を進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
昨年度に引き続き、まさしく本研究の主題に深く連関する・するべき、東日本大震災に伴う諸問題に関して、文字通り、哲学と自然科学の交差を問うという課題にふさわしい研究成果を上げることができた。まずは、研究代表者自身が『放射能問題に立ち向かう哲学』という単著を公刊し、哲学の視点から、放射線被曝の健康影響という、物議を醸し続けている問題に正面切って論じた。放射線の問題だけを論じると明言しても、政治性の濃い原発問題とどうしても連関づけられてしまうがゆえに、なかなか論じにくい話題なのだが、本研究の趣旨として避けて通るわけにはいかない。批判を恐れず発表できたことは大いなる成果であった。また、被災者・避難者の心のケアの問題に関しても、研究分担社の榊原がきわめて充実した成果を上げ、本研究課題の遂行という点で、まことに中身の濃い年度になった。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も、引き続き、放射線被曝問題や、津波震災などの自然災害をも論ずべきテーマとして意識することによって、哲学と自然科学の交差をめぐる本研究のテーマをさらに掘り下げていきたいと考えている。具体的には、心理学や経済学において主題的に扱われることの多い「リスク」の問題について、あえて哲学的な視点を持ち込み、リスク論という文脈に流れる幸福感とか死生観といった根源的な物の見方に踏み込んでいきたい。また、もう少し理論的な観点から、自然科学が「何々するべき」という規範的な主張をどのように導けるか、という問題にも立ち向かいたい。規範性が法則性や記述的事実とどう関わるか、という優れて哲学的な主題を研究の課題に据えたいということである。それ以外にも、引き続いて、「ケアの現象学」の研究、フランス哲学的な視点からの身体論・生殖論など、哲学倫理と自然科学とが事柄の本質上クロスオーバーしなければならない領域を意識的に主題化して、新しい視点を切り開いていきたい。
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Research Products
(46 results)