2011 Fiscal Year Annual Research Report
生表象の動態構造-自伝、オートフィクション、ライフ・ヒストリー
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22320064
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
森本 淳生 一橋大学, 大学院・言語社会研究科, 准教授 (90283671)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
桑瀬 章二郎 立教大学, 文学部, 准教授 (10340465)
中野 知律 一橋大学, 大学院・社会学研究科, 教授 (50237343)
安田 敏朗 一橋大学, 大学院・言語社会研究科, 准教授 (80283670)
千葉 文夫 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (00163741)
久保 昭博 京都大学, 人文科学研究所, 助教 (60432324)
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Keywords | 自伝 / モダニティ / メディア / 表象 / 痕跡 / エクリチュール / フィクション / 国際研究者交流 |
Research Abstract |
第2年目にあたる平成23年度は、三つの研究シンポジウムを開催し、議論を行った。10月15日には、フランス・パリ第10大学よりウィリアム・マルクス氏(比較文学)を招聘し(講演タイトル:「<文人>の集合的伝記を書くとはいかなることか」)、辻川慶子による報告(「ネルヴァル「ニコラの告白」における剽窃と自伝」)とあわせて「自伝的エクリチュールにおける他者と集合性」と題するシンポジウムを開き、個人の「生」の叙述が反復・引用・剽窃等を通じて先行の作品やジャンルと関わるなかで種々の「集合性」を帯びることを明らかにすることができた。1月21日には、飯田祐子(「書くことと<告白>」)および坂井洋史(「窃視的主体、都市遊歩、そして「日記」)の報告によるシンポジウム「私小説・亀裂・モダニティ-日本/中国の視角からの再考-」を開催し、女性作家による私小説実践の問題や、日本留学の経験もある中国人作家(郁達夫)の私小説実践の問題をとりあげ、自己表出とジェンダー、歴史状況などとの関連について議論したが、ここでは女性私小説作家は執筆する自己の姿をほとんど描かない等、興味深い所見が示された。3月26日には安田敏朗(「日記の近代」)と森本淳生(「自伝的エクリチュールと窃視/盗聴-レチフ・ド・ラ・ブルトンヌ『ムッシュー・ニコラ』を中心に-」)の報告による研究会を開催し、近代において「生」が表象される前提である文字教育(日記教育)とメディア(レチフの自伝と18世紀のジャーナリズム)についてまとめる機会をもった。この研究会では森本より、近代の生表象システムの哲学的/言語的前提や、その歴史や制度(メディア、教育)を概観するテクストも配布され、残り2年間の研究の方向性について全体で確認する作業もなされた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
近代の生表象システムを考察するにあたり、(おもに)フランスと日本における自伝的エクリチュールの歴史的展開と、その前提となる基盤(メディアと教育)とを検討することが、平成23年度においても目的とされていたが、開催した三つのシンポジウムに端的に示されているとおり、これらの問題については研究と討論がなされ、一定の見解がまとめられている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度には、サルトル研究の第一人者であるジルフィリップ氏(パリ第3大学)、ネルヴァル研究の第一人者であるジャン=ニコラ・イルーズ氏(パリ第8大学)を招聘し、自伝的エクリチュールについてのさらなる歴史的/理論的検討の場をもつことが予定されている。11月のシンポジウムでは、民俗学や社会学におけるフィールドワークと生表象(インフォーマントの生/研究者の生)の関連(ライフ・ヒストリーの問題)についても検討する予定である。各研究分担者は、平成25年度の後半に開催が構想されている成果シンポジウムにおいて、各自の問題について見解をまとめられるよう鋭意研究を継続しているが、研究代表者としても分担者それぞれと密接に連絡をとり、全体の構想を提示しつつ、調整を計っているところである。
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