2013 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
22320125
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
平川 新 東北大学, 災害科学国際研究所, 教授 (90142900)
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Project Period (FY) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 仙台領 / 歴史資料の保全 / 慶長遣欧使節 / 伊達家重臣の経営 / 心意統治 / 備荒貯蓄 / 天保飢饉時の村落経営 |
Research Abstract |
旧仙台藩領の未整理古文書の調査として、かつての仙台領であった宮城県と岩手県南部において、NPO法人宮城歴史資料保全ネットワークの協力を得て、東日本大震災で被災したものも含め24件の文書群について、デジタルカメラでの史料全点撮影を行った。伊達家の重臣、広域地域行政を管轄する大肝入、地方都市の商人、宗教者など、仙台藩の研究史を前進させる未知の史実を多数確認できた。 藩政史として、初代仙台藩主伊達政宗が派遣した慶長遣欧使節について、使節となった支倉家の伊達家家臣としての位置づけや、使節の派遣目的など、慶長遣欧使節像をめぐる幾つかの論点を取り上げ再検討を加えた。また仙台藩領の海岸防災林に関する研究では、沿岸部の松林の成立を追究する考察を行った。 江戸時代中期の研究としては、仙台藩主が逝去した際、家臣団や町人層が弔意を示すために自ら実施した剃髪(月代)禁止を通じて、藩主家に対する各身分の自意識を明らかにした。また、仙台藩及び一関藩における正室の役割および奥女中の任務について検討を加え、官僚制における女性の役割を明らかにした。 仙台藩重臣層の研究として、仙台藩重臣天童家に伝わる文書群から家系図に関連するものを中心に、一般市民の郷土史研究にも専門的な学術研究にも活用できるよう未発表資料の公開を行った。そこから、イエの存続のために翻弄された武士の姿が見えてきたことが大きな成果であった。 江戸時代後期の災害史について、天明飢饉後、その教訓を踏まえ地域リーダー主導で行われた備荒貯蓄策をめぐる関係者の議論を分析し、災害対策をめぐる「協働」をめぐる模索を明らかにした。その後の天保飢饉時における仙台藩領村落の社会経済状況の分析からは、米による年貢収納は困難であったが、貨幣による納入はある程度可能であった。この貨幣をもとにした食糧調達によって飢饉の被害が抑制された可能性を指摘した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の基礎となる古文書史料の調査については、NPO法人宮城歴史資料保全ネットワークによる「宮城方式」と称する全点撮影方式により、単年度で26件もの文書群を写真閲覧による研究利用可能な状態を整えることが出来た。従来の目録整備先行型の古文書整理では不可能な速度で、研究課題終了後も視野に入れた、仙台藩研究のための環境整備を進めることが出来ている。あわせて、研究を通じて得られた画像データは、すべて所蔵者と地元自治体に提供している。そのことにより、災害その他の事情で消滅の危機に瀕している地域の歴史資料を、地域の歴史的遺産として将来に継承するための環境整備を協力に推進することが出来ている。 また、本年度も課題に参加している研究者により、学術論文や学会報告などを通じて、積極的に公表することが出来ている。外交史、武家社会史、村落史、災害史の分野で多様な研究成果を挙げることが出来た。それらの成果は、仙台藩の個別事例研究として今後のを超え、当該各分野の研究史において重要な成果となっている。 また、史料集については、今後の研究利用だけではなく、一般市民に対する歴史情報の共有というを視野に入れたものとなっている。このような取り組みは、研究成果の社会還元を通じて、地域の歴史資料に対する市民の関心を高め、地域の歴史文化を研究者と市民が連携して保存・活用・継承していくためのあらたなしくみ作りに寄与している。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度は、本研究課題の最終年となっている。これまでに実施してきた状況を踏まえ、成果の総合的なとりまとめと社会発信を行ってゆく。そのことは、仙台藩の新たな歴史像の総合的な提示と共に、本研究課題で直接のフィールドである、東日本大震災被災地の歴史を、将来にわたって客観的に検証可能な形で記録化するということも目指している。 仙台領各地に残された歴史資料の保全と共有化について、前年度までに確認されてきた歴史資料について、研究期間終了後の学術研究、仙台藩の歴史を調べようとする市民が共有できるような環境整備を進めてゆく。具体的には、文書の写真帳の作成と共に、それらを調べる手がかりとなるような、文書群単位での概要情報の整備が挙げられる。 研究成果の公表について、成果の最終年度として、これまで確認された史料などを分析し、個別の成果発表を進める。また、前年度からNPO法人宮城歴史資料ネットワークによる被災地の歴史再生叙述事業へ研究成果を提供する形で、市民にわかりやすく仙台藩の歴史に関する成果を還元し、新たな仙台藩の歴史像を共有する。 研究成果を広く公表するため、各種の研究成果に基づく講演会やシンポジウムを、仙台市や、研究のフィールドとなった各地で行ってゆく。 以上の活動を通じて、研究者や市民との間で情報交換・議論を進め、史料解釈に還元していきつつ、仙台領・仙台藩の新たな歴史像を提示する。
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Research Products
(15 results)