Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
渡部 雅浩 東京大学, 大気海洋研究所, 准教授 (70344497)
三瓶 岳昭 会津大学, 先端情報科学研究センター, 准教授 (50571775)
谷本 陽一 北海道大学, 地球環境科学研究院, 准教授 (00291568)
高藪 縁 東京大学, 大気海洋研究所, 教授 (10197212)
|
Research Abstract |
我が国の天候変動にも関係する持続的な大気循環変動に関する3つの「学界の常識」を,全球大気再解析データなど新しい解析・診断手法に基づき再検証を試みた. 1)中高緯度で寒候期に観測される持続的循環偏差にエネルギー収支解析を行った.その結果,従来からその重要性が指摘されている3次元平均流からの運動エネルギー変換のみならず,傾圧的な偏西風からの有効位置エネルギー変換もそれ以上に重要であることが分かった.これは,従来の常識とは異なり,持続的循環偏差が傾圧構造を有することを意味し,かつ中緯度の海洋前線帯に伴う顕著な海面水温南北勾配が移動性高低気圧波のみならず,準停滞性循環偏差の傾圧性の維持と傾圧的な増幅にも寄与する可能性を示唆する興味深い結果である.実際,北太平洋気候系の10年規模変動に伴う大気循環偏差も傾圧構造を持つことが示された. 2)夏季とは異なり,冬季亜熱帯ジェット気流沿いに卓越する持続的波動擾乱が特定の地理的位相を取りがたい傾向を見出し,エネルギー収支解析の結果もこれと整合的であった.これは,アジア大陸上の冬季亜熱帯ジェット気流が夏季に比べ東西一様性が高く,ロスビー波の単なる導波管として振舞う傾向を示唆する結果と解釈できる.こうした傾向は線型モデル実験によっても確認された, 3)夏季小笠原高気圧の勢力の変動を示すPJパターンについては,その力学モード性を反映し,「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第4次評価報告書」に関わる24の数値気候モデルの20世紀気候再現実験において,そのモデル再現性がモデルの夏季気候平均場の再現性に強く依存することを見出した.また,後者のモデル間のばらつきもPJパターンに強く射影される傾向を見出した.一方,PJパターンの影響などによる梅雨前線帯の経年変動には,亜熱帯ジェット気流の変動,特にジェットによる対流圏中層の暖気移流偏差が大規模上昇流を変化させる効果が強く関わることを見出した.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
PJパターンの力学モード性を検証する複数の論文を米国気象学会専門誌に発表し,亜熱帯ジェット上の波動擾乱に関する成果も含め,国際学会での招待講演を複数行っている.湿潤線形傾圧モデル方程式系の特異値分解は,対流不安定の作用で数値解析上の困難が生じているものの,PJパターンなどによる梅雨前線の経年変動に対する亜熱帯ジェット気流の役割や北太平洋中緯度の10年規模変動における大気循環偏差の傾圧性など興味深い成果も次々と出されている.尚,本科研費を含む複数の研究プロジェクトにて挙げた多くの成果が高く評価され,分担者の三瓶准教授が23年度日本気象学会山本・正野論文賞を受賞し,渡部准教授が24年度日本気象学会賞を受賞することが決まった.
|
Strategy for Future Research Activity |
概ね順調に成果が挙がっているため,基本的には当初の予定通り進めるが,湿潤線形傾圧モデル方程式系の特異値分解は,対流不安定の作用で数値解析上の困難が生じている.熱強制の場所を系統的に変える強制応答実験で代用する選択肢も保持しつつ,柔軟な対処を図る.
|