2012 Fiscal Year Annual Research Report
芳香性花卉の非メバロン酸経路を介する香り発散特性の分子機構
Project/Area Number |
22380024
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
土井 元章 京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (40164090)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
林 孝洋 近畿大学, 農学部, 教授 (40173009)
細川 宗孝 京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (40301246)
水田 洋一 京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 助教 (90239236)
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Project Period (FY) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 園芸科学 / 花卉 / バラ / 香気成分 / 発散特性 / モノテルペノイド / モノテルペノイド合成酵素遺伝子 |
Research Abstract |
バラにおける香気成分の発散特性をより詳細に明らかにするため,香気成分の発散部位である花弁の向軸側表皮,背軸側表皮の形態を走査型電子顕微鏡により観察した.向軸側の表皮細胞は釣鐘状で先端にクチクラが筋状微細構造をつくっていた.一方,背軸側は平板で全面にクチクラワックスが沈着していた.ただし,芳香性品種,非芳香性品種とも形態は似通っており,香気成分を蓄積するような細胞や構造物は観察されなかった. 芳香性の品種である‘イブピアッチェ’を供試し,背軸表皮と向軸表皮をそれぞれ取り除いた外花弁から香気成分を抽出して分析した.香気成分はいずれの側からも多量に検出され,向軸側ではネロールが,背軸側ではゲラニオールとネロールの内生量が多かった. 前年度までに明らかになった,バラモノテルペノイド合成酵素候補遺伝子のRhMTS1およびRHMTS2について,非芳香性品種および芳香性品種の花弁での発現解析を継続したところ,RhMTS1は‘イブピアッチェ’の内花弁において高発現していた.RhMTS2は,‘イブピアッチェ’,‘スイートアバランチェ’ともに内花弁で外花弁と比較して高発現しており,芳香性,非芳香性の品種間に発現量の差は認められなかった.これらの結果は,前年度までの結果と概ね一致し,この2つのモノテルペノイド合成酵素候補遺伝子の発現において,芳香性,非芳香性を説明することはできなかった. 芳香性のバラ切り花について,ヒトの心理(POMS)・生理(心拍変動パワースペクトル解析,唾液アミラーゼ量)に及ぼす影響を調査した.生花や生花弁を呈示した直後から,交感神経活動の低減と副交感神経活動の亢進がみられ,バラの香りが鎮静効果を与えていることが示された.また,アミラーゼ量が低下したことから,精神的疲労を低減することが示唆された.一方,ハイドロゾルの香気吸入には,興奮効果があることが示された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
モノテルペノイド合成酵素候補遺伝子の発現解析において,実験装置の故障や操作ミスなどが重なり,研究の進行が遅れ,研究費の一部を平成25年度に繰越した.加えて,香気発散の分子機構については,バラ花弁での2つのモノテルペノイド合成酵素候補遺伝子に焦点を絞り研究を継続しているが,RhMTS1はノーザン分析での発現レベルが低く,また発現量の比較的高いRhMTS2では非芳香性品種でも高発現するなど,ノテルペノイド合成酵素候補遺伝子の発現において,芳香性,非芳香性のちがいを説明することができていない.そこで,平成24年度に計画していたこれらの酵素の機能解析は断念せざるをえない状況となった. 交配実験においては,‘イブピアッチェ’と‘スイートアバランチェ’あるいは‘モナムール’との交配がいずれも不稔となり,F1個体が得られなかった.一方,フリージアにおいては,リナロールが香気成分のほとんどを占める品種と,リナロールがやや少なく,他のいくつかのモノテルペノイドが混ざる品種の交配種子から得られたF1個体が平成25年春に開花し,多くの個体で後者の香気特性に近いF1が多くなることが明らかとなったことで,香りの遺伝様式の解明に関して進展がみられた. 発散特性の解明,ヒトの心理・生理に対する香気の機能評価に関しては順調に進んでいる.
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Strategy for Future Research Activity |
バラにおいては,芳香性,非芳香性品種のちがいがモノテルペノイド合成酵素候補遺伝子の発現量のちがいでは説明されないこと,多数の種類のモノテルペノイドが発散されている中で候補遺伝子がどのようなモノテルペノイド合成に関わるかの特定は大変難しいことを考えると,このままモノテルペノイド合成酵素遺伝子を追求することは研究遂行上効率的ではない.また,これらの結果から,ゲラニオール合成の1つ上流の反応で,ジメチルアリル二リン酸とイソペンテニル二リン酸からすべてのモノテルペノイド合成の前駆体となるゲラニル二リン酸の合成に関わるゲラニル二リン酸合成酵素に芳香性と非芳香性品種に差がみられるのではないかと考えるようになった.そこで,平成25年度はゲラニル二リン酸合成酵素(GPPS)遺伝子を探索する実験計画へと変更を加える. また,花弁の向軸側,背軸側からの香気成分の発散は,内生量から考えて,両側でみられると考えられるが,この点を香気の捕集法を工夫することで明らかにしたい.もし,片側からの発散しかない場合には,両側の表皮細胞間での遺伝子発現の差異を明らかにする研究へと展開できる. 香気の機能については,花弁からのハイドロゾルの他にアブゾリュートやアンフルラージュ油脂を得て,視覚機能から切り離した香気のみの機能について検討を加える.
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