2011 Fiscal Year Annual Research Report
北方針葉樹における環境適応の実態と遺伝的メカニズムの解明
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22380080
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
後藤 晋 東京大学, 農学生命科学研究科, 准教授 (60323474)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
北村 系子 独立行政法人森林総合研究所, 北海道支所・森林育成グループ, 主任研究員 (00343814)
尾張 敏章 東京大学, 農学生命科学研究科, 准教授 (00292003)
鴨田 重裕 東京大学, 農学生命科学研究科, 准教授 (80282565)
寺田 珠実 東京大学, 農学生命科学研究科, 助教 (70201647)
久本 洋子 東京大学, 農学生命科学研究科, 助教 (60586014)
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Keywords | 相互移植 / トウヒ属 / PAL遺伝子 / GIS / 標高 / アカエゾマツ / 繁殖資源 / 成長量 |
Research Abstract |
1.標高に対する適応のモデリング(後藤・北村):東京大学演習林に設定されたトドマツの標高間相互移植試験地を対象に、これまでのデータを整備するとともに、統計モデルを用いた解析を行った。その結果、高標高地と低標高地では移植する標高差が大きくなるほど、生存率や平均樹高が劣り、自生地に近い環境に移植した際に蓄積が大きくなることが示された。2011年度は高標高×低標高の人工交配を実施し、F2種子を作出することができた。2.標高分化に関わるマーカー遺伝子の探索(鴨田・寺田):CHSおよびSTS遺伝子の共通プライマーを用いて解析したところ、パターンの類似性が高かったため、新たなターゲット遺伝子としてPALに着目した。今年度はまず先行モデル樹木であるユーカリのPAL遺伝子クローニングを完結させ、その情報をエゾマツに応用させるべく特異的マーカー作成に着手した。3.施業対象地以外の分布特性と環境条件の把握(尾張):東京大学演習林の北東部に位置する大麓山南西斜面の天然林(面積2,133ha)を対象に、現地調査によって主要樹種の分布域を定量的に把握し、GISを用いて標高など地形要因との関係を解析した。モデル解析の結果、標高はトドマツとエゾマツの個体数に負の効果を、アカエゾマツの個体数に正の効果を及ぼしていた。4.開花結実に由来標高が及ぼす影響の解明(久本・後藤):トドマツの標高別相互交雑試験地において、当年の繁殖調査および6年間の成長量調査を行った。雄花および球果量は高標高同士のF1個体で有意に多く、樹高の成長量は低標高個体が有意に大きかった。このことは、高標高個体が資源を栄養器官よりも 繁殖器官へ分配する戦略をとり、それが次世代に遺伝する獲得形質であることを示唆した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
1.標高に対する適応のモデリングでは、世界的にも類を見ない規模のトドマツの相互移植試験地での自らのフィールド調査に加えて、過去のデータをデジタル化し、統計モデルを用いることにより、自生標高への遺伝的適応が起こっていることを示した。本研究では、36年間という世界的にも例を見ない長期のデータで局所適応を示した点が高く評価され、Evolutionary biology誌に掲載された。2.標高分化に関わるマーカー遺伝子の探索では、これまで樹木ではほとんど注目されてこなかったPAL遺伝子について、モデル樹木であるポプラでのクローニングを行い、マーカー開発に着手した。3.針葉樹3種の分布特性と環境条件の把握では、多地点の毎木調査データとGISを用いた各地点の環境条件の定量化から、針葉樹3種の分布環境を説明することができるようになった。4.両親の遺伝的背景が後代の繁殖と成長に及ぼす影響(久本・後藤)では、標高間相互移植試験地において、結実量を高所作業車を用いて正確に把握することにより、高標高系のゲノムを多く有する個体と低標高系ゲノムを多く有する樹木では栄養成長と繁殖成長の資源配分が異なるという新しい仮説を見出した。以上のように、本研究課題では、北方針葉樹の自生標高の環境への遺伝適応のメカニズムを解明する上で、様々な角度から新規性の高い知見を得たと評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
1. 標高に対する適応のモデリング:昨年度、高標高×低標高の交雑試験地から得られた遺伝的背景の異なる種子を得ることができた。今後はこれらの圃場試験を行い、母樹の遺伝的組成(高標高系のゲノムの割合)が実生後代のフェノロジーや成長形質に及ぼす影響を解明する。また、耐凍性獲得タイミングの標高分化について成果を取りまとめる。2. 標高分化に関わるマーカー遺伝子の探索:針葉樹を対象にPAL遺伝子のクローニングを行い、PAL遺伝子が特異的な標高分布のマーカー遺伝子となり得る可能性を探る。具体的にはまず、エゾマツを対象にトウヒ属で初のPAL遺伝子のクローニングとマーカー化に取り組む。3.針葉樹3種の分布特性と環境条件の把握:これまでの調査に加えてさらにプロットを設定し、施業地と非施業地を合わせて、針葉樹3種が優占する標高域と限界標高を明らかにする。さらに、GISを用いて各プロットの環境条件を抽出し、標高を考慮した上で日射量などの条件が各種の分布特性に与える影響を解明する。4. 両親の遺伝的背景が後代の繁殖と成長に及ぼす影響:高標高と低標高由来個体を相互に交雑させたトドマツF1個体群について開花調査と成長量調査を行い、昨年度の結果と合わせて、高標高系のゲノムをより多く有する個体が栄養器官よりも繁殖器官へ分配する戦略を取っているとする仮説を検証する。
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Research Products
(5 results)