2010 Fiscal Year Annual Research Report
ルーマニアにおける社会体制の変革に伴う移牧の変貌と環境変化
Project/Area Number |
22401006
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Section | 海外学術 |
Research Institution | Hosei University |
Principal Investigator |
吉野 和子 法政大学, 文学部, 教授 (00101329)
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Keywords | 移牧 / 社会体制の変革 / 土壌侵食 / 植生の変化 / 環境変化 |
Research Abstract |
ルーマニアのEU加盟後における羊の移牧の変貌について主として、南カルパチア山地北麓と、マラムレシュを中心として調査を行った。さらに2007年に完了することができなかったスロベニアのEU加盟後の現状を把握するための調査を行った。 ルーマニア南カルパチア山地において今回判明したことは、EU加盟後500頭~1500頭の大型羊農家が出現していること。チーズ、肉等の中間のバイヤーが存在していることが判明した。肉は国外への輸出主体であり、チーズは国内消費向けである。一方夏の移牧の宿営地であるカルパチア山地山頂部へ移動する羊は年々減少傾向にあり、草地に灌木が侵入しつつある.その開始はハイマツの樹齢から約20年~22年前まで遡ることがわかった。従って、EU加盟後の自然環境の劣化に対するストレスは小さくなりつつあることが植生からも証明できた。 ルーマニアの北部、マラムレシュ地方は第一次世界大戦前からユダヤ人による開墾が進行したところで、今は200頭以下の小規模な羊農家が多い。羊のみではなく、牛と羊の複合型の移牧が行われている。EU加盟後のチーズ、肉の販売は国内での消費向けである。牧羊農家の規模が小さいこともあり、生産と自然環境とのバランスを崩しているとは思われない。しかし、マラムレシュの聞き取りは、本年は不十分であり、来年度も引き続き調査を続ける必要がある。 スロベニアの調査は、EU加盟後、少数の牧羊農家がどのように経営しているかについて聞き取りを行った。ルーマニアよりも早くEU加盟を果たしたスロベニアでは、もはや羊の移牧は成立し得ず、飼料で飼うことを基本としている。夏のみ野外での放牧を行うのみであり、完全に移牧が消滅したことがわかった。ただし、牛は夏の宿営地を観光化することで、垂直移牧が成立している例があることがわかった。このスロベニアの例は、ルーマニアにおいても、遅かれ早かれ羊の移牧は消滅する文化であることを示唆すると思われる。
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Research Products
(3 results)