2012 Fiscal Year Annual Research Report
東北タイ天水田における土壌養分動態の解明に基づくイネの耐乾性評価
Project/Area Number |
22405015
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Section | 海外学術 |
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
山岸 順子 東京大学, 農学生命科学研究科, 准教授 (60191219)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
森塚 直樹 京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 助教 (10554975)
加藤 洋一郎 東京大学, 農学生命科学研究科, 助教 (50463881)
本間 香貴 京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 講師 (60397560)
田島 亮介 東北大学, (連合)農学研究科(研究院), 助教 (60530144)
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Project Period (FY) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 国際研究者交流 / 東北タイ / 環境調和型農林水産 / 水資源 / 作物学 / 土壌学 |
Research Abstract |
天水田では、圃場への水供給の大半が降雨に依存 するため、稲作期間中に頻繁に田面水が消失する。天水田におけるイネの養分吸収の抑制メカニズムには、1)植物の総根長(表面積)の抑制、2)植物根の養分吸収力の低下、といった植物側の要因のほか、3)落水に伴う土壌中の養分難溶化、4)落水に伴う養分マスフローの低下、5)落水に伴う養分拡散速度の低下、といった土壌側の要因が考えられる。本研究では、ウボン稲研究所において2つの異なる水管理の圃場(常時湛水、非湛水)を用意し、東北タイ天水田におけるイネの養分欠乏ストレスの発生原因を解明することを目的とした。まず、窒素施肥およびリン施肥の効果を調べたところ、イネの窒素吸収量は、窒素施肥によって増加し、これに伴い地上部乾物重も増加した。しかし、リン施肥を行ってもリン吸収量は増加しなかった。次に土壌について調査した結果、ブレイ第2法によって推定した稲作後の土壌の可給態リン含有量は、湛水あるいは落 水といった水管理の影響を受けておらず、稲作前の土壌の可給態リン含有量の影響およびリン施肥の影響が大きいことが明らかとなった。このことから、当該地域の天水田では落水に伴う土壌中のリンの難溶化が起こる可能性は比較的小さいと推察された。また、湛水処理、非湛水処理いずれの圃場でも土壌溶液中のリン酸濃度が検出外であったことから、マスフローによるリン移動は非常に小さいと考えられた。一方で、非湛水圃場の植物体のリン吸収量は湛水圃場の値よりも明らかに低かったが、これは土壌の可給態リン含有量と対応していなかっ た。以上の結果を総合すると、天水田における落水時のイネのリン吸収の低下に関わる土壌側の要因として、リン難溶化やマスフローの低下よりもむしろ、土壌中の養分拡散の抑制の影響が大きいことが推察された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
天水田におけるイネの生育・収量の抑制要因について、頻繁な乾湿の繰り返しの中で、リン吸収の低下が大きな問題となることが明らかとなってきた。本年度はそれらについて、さらに土壌側と植物体側からのメカニズムに近づきつつある。すなわち、土壌中のリンの動態は、乾湿の繰り返しによるリンの土壌中での拡散抑制が大きな要因であることが示唆されてきたこと、そして、弱い乾燥であっても根の生育が抑制され、それが土壌硬度の急激な上昇によることが植物体側の要因としてあげられてきた。これらを打破するために、植物体側としていくつかの適性な系統が候補としてあげられてきており、また、施肥法を中心とした栽培管理方法の検討も行えてきた。
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Strategy for Future Research Activity |
東北タイウボンの現地研究機関(ウボン稲研究所)の天水田における昨年度までの試験結果より、不規則な降雨パターンに伴う土壌の乾湿の繰り返しがイネによる土壌中のリンの利用を著しく制限しており、そのためたとえリンを施肥したとしても効果が非常に小さく、イネの生長・収量が抑制されることが明らかとなった。また、乾湿が繰り返される条件では、リンは難溶化している可能性は小さく、拡散せずにほとんど移動しないことが示された。したがってイネが可給態のリンを吸収するためには根系発達が重要な役割を果たすこと考えられる。しかし、土壌が乾燥すると土壌硬度が上昇してイネの根系発達は顕著に抑制されることから、存在するリンの利用は困難となる。その中でも、いくつかの系統では根系発達が抑制されにくいことが明らかとなってきており、それらの系統はリンの利用に優れると考えられた。そこで、本年は次の3点の試験を現地研究者の協力を得て実施し、最終的な全体のとりまとめを行う。 (1) 圃場試験において、根系発達が乾燥によって抑制されにくい系統の有利性を確認する。(2) リンの施肥位置や施肥形態、施肥時期についてポット試験も併用して試験を行い、栽培管理手法の面から検討する。 (3) 天水田農家圃場における土壌化学性の調査を継続し、東北タイ天水田の土壌養分環境の特徴をまとめ、現地研究機関の天水田で得られた成果の適用について検討する。 最終年度であることから、今まで得られた試験結果および調査結果を取りまとめる。
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