Research Abstract |
中国・黒龍江省におけるコメ産業が1980年代初頭以降急速に発展し、世界一のジャポニカ米産地へと発展したメカニズムについて研究し,以下の点を明らかにした. 1.中央政府や省政府,国営農場が連携して1980年代末頃から灌漑,排水事業を推進して稲作の先進技術が普及する条件を整えるとともに稲作面積の拡大を可能にした.また,日本から移転された畑苗移植栽培技術から「早育稀植三化栽培技術」を確立することにより,気温が低く,無霜期間が短いという稲作の制約条件を克服して,稲作の北限をさらに北進させて稲作面積の飛躍的拡大を可能にした.さらに,日本の稲の品種の中から農懇区の風土条件に適応する耐冷性・高収量品種を選抜するとともに,それらの品種と在来品種を交配して新品種を育成した. 2.米価の引き上げにより1994~98年と2004~08年の二つの期間に,稲作のムー当たり利澗額は他の畑作物の利潤額と比べ大幅に上昇した,このため畑作から稲作への作付転換が進み,稲作面積が拡大するとともに単収も向上して,コメ生産量は大幅に増加した.団地化された農地や井戸水灌漑がこうした作付転換の自由度を大きくした. 3.米価の上昇に伴う農家の資本蓄積の増加や大型農業機械の購入費補助金の支給が農業機械投資を促進した.高度経済成長に伴う農業労賃の上昇とともに機械化が加速化し,2010年頃までには,稲作の主要作業はほぼ全て機械化された.中型・大型機械化一貫体系を用いて10~20haの大規模稲作経営が厚い層として形成された. 4.農家の簿記の分析より,(1)一般農村の稲作経営に対し,職工農家の所得水準は優位性を有していること,(2)機械化一貫体系が上層で形成されているとはいえ,季節雇用や臨時雇用に依存する割合が高く,労賃の上昇によりコストに占めるウェイトを高めていることを明らかにした. 5.「北大荒米業」は,コメの販売単価が高いため他の大手卸に対する競争力を持っていない.今後は,単位農場との連携を強化し,緑色米や有機米など,より明確な差別化戦略のもとで増大しつつある中産階級をターゲットとする中で,上海・江蘇省などの「華中経済圏」から華南経済圏」への進出を図るべきである.
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Strategy for Future Research Activity |
1.稲作農民の農業投資資金の入手状況について農業銀行,農村信用合作社,国有農場,職工濃家から聞き取り調査を行う. 2.コメの加工・流通企業である北大荒米業や小売業のスーパーマーケットでコメの流通経路,流通マージン,米価,取扱っているコメの種類等についで調査する.黒龍江省のコメを外国に輸出する際の輸送ルートや倉庫,輸送手段,輸送コスト等について調査する。日中韓FTA交渉が開始されたので,将来,日本のコメの関税率が引き下げられる可能性がでてきた.日本のコメ関税率がどこまで引き下げられたら黒龍江省からコメ輸入が始まるか試算する. 3.本年度は最終年度であるので,中国の農墾大学で本研究成果に関するシンポジウムを開催するとともに,・日本の学会でもミニ・シンポジウムを開催することを計画する.
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