2011 Fiscal Year Annual Research Report
ERK2標的遺伝子欠損マウスを用いた脳機能におけるERK2の役割の解明
Project/Area Number |
22500304
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Research Institution | National Defense Medical College |
Principal Investigator |
佐藤 泰司 防衛医科大学校(医学教育部医学科進学課程及び専門課, 病院, 講師 (10505267)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
足立 健 防衛医科大学校, 医学教育部・医学科専門課程, 教授 (50231931)
遠藤 省吾 地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター, 東京都健康長寿医療センター研究所, 研究部長 (60192514)
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Keywords | ERK / 神経 / 細胞内情報伝達 / 神経幹細胞 / 分化・増殖 / 自閉症 / 育児 |
Research Abstract |
神経細胞間の情報のやり取りを制御するERK2というタンパク質は、各種神経・精神疾患との関連が従前より示唆されているが、そのメカニズムは未だに解明されていない。当該年度はERK2遺伝子改変マウスを用いて、主に行動学的手法を用いてERK2の役割を解析した。その結果、ERK2が中枢神経系において欠損したマウス(ERK2コンディショナルノックアウトマウス)は野生型マウスと比較して記憶・学習能力が劣るだけでなく、他のマウスに対して攻撃的になったり、無関心になってバラバラに行動するなど、社会性行動にも大きな異常があることが解った。これらの異常行動はヒトにおける自閉症の行動と酷似しており、自閉症とERK2の関係が推察された。自閉症は脳の発達障害の一つで、うまく人間関係が作れなくなったり、同じ行動を繰り返したりするなどの特徴がある。国内では1千人に2~3人の割合で発症しているとされる。自閉症の完治は現状では困難であり、家族にとって経済的・心理的な負担がかかり、大きな社会問題と化している。自閉症は複数の遺伝的な要因が重なっていると考えられ、関係する様々な遺伝子が報告されているが、今回関連が発見されたERK2は関係が指摘されている多くの因子と密接な関係があり、共通要因となっている可能性がある。さらに、ERK2コンディショナルノックアウトマウスのメスは出産はできるものの、育児をすることができず、仔がほとんど死んでしまうことが解った。今回の結果は自閉症や育児放棄のメカニズムの解明や治療法の開発につながることが期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度、次年度と二年度連続して著名な米神経科学専門誌(Journal of Neuroscience)に報告が受理されたばかりでなく、朝日新聞朝刊や産経新聞などでも成果が取り上げられ、大きな反響を得ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究の結果より、ERK経路が記憶・学習メカニズムや機能性精神疾患に大きく関わっているのではないかという仮説が得られた。しかしながら、現在のところ個々のノックアウトマウスのフェノタイプの解析にとどまっており、細胞内ネットワークレベルでのダイナミックな挙動の中で、ERKがどうような役割を果たしているかを理解できたとは言い難い。今後さらに形態学的手法、生化学的手法や電気生理的手法に至るまで、多角的な手法を用いて解析し、神経細胞における細胞内情報伝達機構全体のダイナミクスの解明に迫る。
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Research Products
(8 results)