Research Abstract |
本研究は,環境中に排出された多環芳香族炭化水素(Polycyclic Aromatic Hydrocarbons : PAH)類の大気内反応により二次生成する,含酸素PAH誘導体の生成機構ならびに環境動態を明らかにするとともに,それらによる生体影響の評価を行うことを目的としている。本年度は,以下の項目について検討を行った。まずは,模擬大気反応実験により,含酸素PAH誘導体の大気内濃度を支配する可能性のある光分解反応の速度定数を得た。パイレックスガラス製の反応チャンバーとブラックライトランプから成る反応実験系を用いて,9種類の含酸素PAH類の光分解反応による速度定数を検証した。その結果,紫外光に対して最も安定であったのは1,2-benzanthraquinoneであり,一方benzo[c]phenanthrene-5,6-quinoneが最も不安定であることがわかった。実験系で得られた光分解反応の速度定数および量子収率と,実験系における照射光の強度・波長分布から,対象とした含酸素PAH類の実大気中における分解速度定数および寿命を見積もることができた。その結果,検討した9種の含酸素PAH類の実大気中における分解速度定数は8.0×10^<-6>sec^<-1>~6.2×10^<-5>sec^<-1>の範囲であり,大気内寿命は5時間~35時間の範囲となった。これより,少なくとも一部の含酸素PAHに対しては,ニトロ化PAHと同様に光分解反応が,大気中の濃度を支配する重要な因子となり得ることが明らかとなった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前年度における新規含酸素PAH類の同定・定量に引き続き,これまで明らかとなっていなかった含酸素PAH類の光分解の速度を定量的に評価することが可能となるなど,おおむね当初の見込み通りの研究成果をあげることができた。
|