2013 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
22520001
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Research Institution | Hokkaido University of Education |
Principal Investigator |
中川 大 北海道教育大学, 教育学部, 教授 (40237227)
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Project Period (FY) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 英国新実在論 |
Research Abstract |
本研究では、ラッセルやムーアに代表される、20世紀初頭英国のいわゆる新実在論について、マイノングやブレンターノに代表されるオーストリアの実在論との影響関係を軸に、哲学史的に検討する。現代哲学形成期における、倫理学・現代哲学・存在論の展開をオーストリアと英国の諸学派の交流と抗争の経緯のうちに位置づけるとともに、現代的な倫理学と言語哲学との関係、また、倫理学と存在論との関係を、それら諸分野の成立の来歴を考察することを通じて、新しい観点から記述し直すことをめざす。 今年度の研究では、ムーアの判断論について、ムーアの学位請求論文(Thomas Baldwin and Consuelo Preti(eds.), G. E. Moore: Early Philosophical Writings, 2011, Cambridge University Press)でのカント倫理学についての批判的研究と、かれの1899年の論文「判断の本性」(`The Nature of Judgment')とを突き合わせて検討することを通じて解明した。この問題については、2013年5月24日の科学基礎論学会の講演会で発表した。ムーアの1899年論文については、いまだ解明されていない部分が大きく、この論文が英国新実在論にどのような影響を与えたのかを見積もることは、依然として重要な仕事である。そのための研究に新しい視点を与えようとする試みである。 また、フランスのウィトゲンシュタイン研究者J・ブーヴレスの著作『規則の力』を翻訳出版したことを関連する成果としてあげておくこともできる(村上友一との共訳、法政大学出版局)。ウィトゲンシュタインが英国新実在論において占める位置、さらにまた、かれとムーアとの影響関係は、いずれもきわめて重要な論点たりうるからである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ムーアの判断論について、1899年論文と学位請求論文との検討を通じて、研究を進めている。いっぽう、ムーアの存在論とラッセルの言語哲学との関係についての検討は、やや遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
ラッセルの記述理論の問題設定とムーアの判断論の問題設定とを比較する。比較するための前提として、ムーアの1899年の論文「判断の本性」(`The Nature of Judgment')について、一定の理解を得なければならない。そのために、二方向からのアプローチを試みる。 いっぽうでは、ラッセルの記述理論の背景をなす変項の理論を、1903年の著作『数学の原理』(The Principles of Mathematics)や1905年の論文「表示について」(`On Denoting')にいたるラッセルの数学の哲学の変遷を追うことを通じて、ラッセルがムーアに見出だした新しい「論理」の内実を明らかにしていきたい。 もういっぽうでは、ムーアとラッセルの双方にとって議論の前提となっていたブラッドリーの著書『論理学原理』(The Principles of Logic, 1883,1922) を改めて検討し、この書物を軸にムーアとラッセルの対比をしていきたい。その作業にあたり、学位請求論文(Thomas Baldwin and Consuelo Preti(eds.), G. E. Moore: Early Philosophical Writings, 2011, Cambridge University Press)等でのムーアのカント研究において、ブラッドリー哲学がどのように位置づけられているかを明確化していかなければならない。 過去4年間の研究を下敷きにしつつ、以上のような観点から、本研究のまとめをおこなう。
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