2010 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
22520020
|
Research Institution | Nagoya Institute of Technology |
Principal Investigator |
瀬口 昌久 名古屋工業大学, 工学研究科, 教授 (40262943)
|
Keywords | 老年論 / 正義論 / ネストル / 仕事と日 / ヘシオドス / プラトン / ゲーロトロポス / ヒュブリス |
Research Abstract |
「老年と正義」というモチーフは、ホメロスの『イリアス』においてみられるように、西洋古代文学では、古老ネストルやトロイアのプリアモス王に仕えた、「町の長老(デーモゲロンテス)」の相談役や助言者の役割に見られるように、正義を基いとする政治的知恵が、経験を積んだ老年の賢慮と結びつけられていたこと、他方で、ヘシオドスの『仕事と日』に見られたように、古代社会においては老年の生活がとりわけきびしいものであったがゆえに、老齢になった「両親を世話する責務(ゲーロトロポス)」に反し、老いた両親を冷遇し虐待することこそ正義に最も悖る行為とみなす伝統的価値観が存在したことに淵源をもつことが明らかになった。とりわけ、ヘシオドスが、「ヒュブリス(暴力・傲慢)」と成熟という観点から、「老年論」と「正義論」とを接続していたことが、プラトンの『国家』におけるソクラテスと老ケパロスとの老年と正義をめぐる対話に継承されて、『仕事と日』と『国家』が密接な関係をもち、プラトンの正義論において、ヘシオドスの正義論が最も重要な先行教説として扱われていることが明らかになった。また喜劇においてはアリストパネスが世代間における価値観の鋭い対立という観点から、老人と正義を結びつけて作品の主題としていたことは重要であることがわかった。プラトンが、前五世紀までに積み重ねられてきた古代世界の人間経験と叙事詩から悲劇や喜劇に至る文学世界の洞察に富んだ多様な老年像に対し、人間の生き方への問いと自然を含む世界の見方を統合する観点から、新たな知的反省を加えて、みずからの哲学的老年論を登場させていることが理解できた。
|
Research Products
(1 results)