2010 Fiscal Year Annual Research Report
観客論的視点から見た英国ルネサンス演劇のマルティプル・プロット構造の研究
Project/Area Number |
22520221
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Research Institution | Hirosaki University |
Principal Investigator |
田中 一隆 弘前大学, 人文学部, 教授 (10227126)
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Keywords | 英文学 / 英国ルネサンス演劇 / マルティプル・プロット構造 / ロバート・グリーン / 『修道僧ベイコンとバンゲイ』 / "state"という言葉 / 観客 |
Research Abstract |
英国ルネサンス演劇には、一つの劇の中に複数の筋が共存する「マルティプル・プロット」構造を持つ劇がきわめて多い。従来の研究は、この構造を主に作品の内的な関連性の観点から考察してきたが、それらの研究は筋の有機的関連から見ると分裂としか言いようのない作品が数多く存在する理由を適切に説明することができなかった。本研究は、従来の研究には見られない観客論的な視点から考察することによって、複数の筋の分裂的な共存に一定の合理性と必然性を与えようとするものである。 英国ルネサンス演劇におけるマルティプル・プロット構造を、筋の有機的な構成の観点からではなく、使われている言葉や表現の細かい側面に着目してみると、複数のプロットの分裂に統一的な視点を提供する言葉や概念が存在している場合が多い。このよう旨な言葉や概念を手がかりにして、複数の筋を多面的・総合的に受容することができたのは当時の観客だけである。当時の劇作家は、観客が批判的・複眼的な視点を通して複数の筋の構成を解釈することができるような仕組みを組織しようとしていたのである。 平成22年度は、英国ルネサンス演劇におけるマルティプル・プロット構造の嚆矢とも言うべきロバート・グリーンの『修道僧ベイコンとバンゲイ』(1589)を取り上げて、本作品のマルティプル・プロット構造の意義を、観客論的な視点から研究した。結果として、この作品においては、"state"という言葉が、「国家」・「大学共同体」・「身分と財産」という多義的な意味を持ちながら、複数のプロットに複合的な視点を提供していることが確認された。
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