2011 Fiscal Year Annual Research Report
観客論的視点から見た英国ルネサンス演劇のマルティプル・プロット構造の研究
Project/Area Number |
22520221
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Research Institution | Hirosaki University |
Principal Investigator |
田中 一隆 弘前大学, 人文学部, 教授 (10227126)
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Keywords | 英国ルネサンス演劇 / プロット構造 / 英国初期近代演劇の観客 / 大学と大衆演劇 / 国家と大学 / state概念の変遷 |
Research Abstract |
英国ルネサンス演劇には、一つの劇の中に複数の筋が共存する「マルティプル・プロット」構造を持つ劇がきわめて多い。従来の研究は、この構造を主に作品の内的な関連性の観点から考察してきたが、それらの研究は筋の有機的関連から見ると分裂としか言いようのない作品が数多く存在する理由を適切に説明することができなかった。本研究は、従来の研究には見られない観客論的な視点から考察することによって、複数の筋の分裂的な共存に一定の合理性と必然性を与えようとするものである。 英国ルネサンス演劇におけるマルティプル・プロット構造を、筋の有機的な構成の観点からではなく、使われている言葉や表現の細かい側面に着目してみると、複数のプロットの分裂に統一的な視点を提供する言葉や概念が存在している場合が多い。このような言葉や概念を手がかりにして、複数の筋を多面的・総合的に受容することができたのは当時の観客だけである。当時の劇作家は、観客が批判的・複眼的な視点を通して複数の筋の構成を解釈することができるような仕組みを組織しようとしていたのである。 平成23年度は平成22年度の研究によって明らかになった、英国ルネサンス演劇の顕著な特質の一つであるプロット構造の複合性が、英国初期近代演劇の観客の(政治的な文脈をも含む)複合的な視点を巧妙に取り込む機能を果たしていた事実に対して高度な実証性を与えるために、前年度の研究対象についてさらに詳細な分析を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
英国ルネサンス演劇のプロット構造の複合性と英国初期近代の観客の視点との相互依存関係について、新しい知見を得たことから、おおむね順調に進展していると評価している。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度は、平成23年度までの研究によって得られた英国ルネサンス演劇についてのさまざまな知見を、英国近代演劇をも視野に入れながら、観客の受容意識の変遷という観点から統一的に説明する作業を行う予定である。平成23年度は英米近代演劇を対象に、観客の演劇的知をめぐる諸要素について、データ・ベース化による精読という手法で、詳細な分析を試みる。英国ルネサンス演劇から英国近代劇への移行という歴史的変遷の中で、観客の受容意識がどのように変化したのかについて、包括的な知見を得ることが24年度の研究計画である。
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