2011 Fiscal Year Annual Research Report
小型版対訳古典テキストの普及と1580年代の英詩・英国演劇
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22520232
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Research Institution | Ochanomizu University |
Principal Investigator |
清水 徹郎 お茶の水女子大学, 大学院・人間文化創成科学研究科, 准教授 (60235653)
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Keywords | 英米文学 / 演劇 / ギリシア詩 / 印刷本 / Marlowe / 古典受容 |
Research Abstract |
平成23年度は、1570年代・80年代英国の大学生・大学院生の教育課程・蔵書状況等に関する先行研究を確認するとともに、16世紀にヨーロッパで刊行されたギリシア詩の印刷本の調査を行った。古典文学の印刷本の体裁は大きく分類して、二折判(folio)など大型で高価な本と八折判(octavo)、十二折判(duodecimo)、十六折判(sedecimo)などの小型で廉価な本の二種類あるが、本研究で注目しているのは後者である。16世紀後半の英国の大学において、多くの場合、学生・大学院生には学寮図書館の本を利用する資格が与えられておらず、勉学に必要な本は購入するなどして各自で調達するしかなかった。したがってそのような学生たちの需要を見込んで、大学を主たるマーケットとするヨーロッパの印刷業者たちは競って小型廉価本を開発した。本研究では、その中でもとくにカルヴァン派と関係の深いスイスの印刷業者たちの仕事に着目し、世俗的古典文学の印刷をめぐる諸事情を調べている。昨年度の本研究計画においては、Homeros、Hesiodos、Theokritos、Moskhos、Theognisなどの古代詩人に加え、Koluthos、Tryphiodoros、Musaios Grammatikosなど紀元後4・5世紀の詩人たちのテキストについての、編纂・出版状況を調べた。それと併行して、Vergilius Maroおよび古代末期のギリシア詩人Quintus Smyrnaiusの叙事詩的技法をChristopher Marloweなど英国詩人の技法と比較する研究も行った。小型本が廉価な故に売れ行きがよかったことは推測できるが、発行部数に関する記録はほとんど残存していないので正確な数はわからない。むしろ改訂・再版の回数とそれをめぐる状況の記録が重要な手がかりとなる。本研究の意義・重要性は、Marloweなどの例を手がかりとして、従来明らかにされていなかった16世紀末英国の大学生・大学院生のギリシア文学読書状況の様態を究明していく点にある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画に従い Vetustissimorum Auctorum Georgica,Bucolica et Gnomica poemata,quae supersunt (1569)とその再版を中心に調査を進めているが、同じCrespin/Vignonの印刷所から出されたIlias(1559),Odysseia(1567)とそれぞれの再版(1570,1574,1580)も17世紀末英国の大学生・大学院生が多く使用したテキストのうちに入る可能性が高いことが明らかになってきた。またIliasのテキストとラテン語訳の改訂にFranciscus Portusが重要な役割を果たしたこともある程度わかってきたので、その点では評価すべき進展状況と考える。一方、流通の問題に関しては今後まだ多くの調査と検証手続きが必要である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度と平成25年度は、 Vetustissimorum Auctorum Georgica et Gnomica poemata,quae supersunt (1569)、Ilias(1559),Odysseia(1567)の3つの本を中心に、対訳ギリシア詩印刷本の編纂・改訂・再版の過程をさらに詳しく分析し、その変化の特徴を明らかにしていく。さらにそれを手がかりとして、16世紀末英国の大学生・大学院生ならびに大学出詩人たちにおける古典ギリシア詩受容の問題を考究していく。また同時代ヨーロッパの印刷業者による出版物との比較も視野に入れる。
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