2012 Fiscal Year Annual Research Report
小型版対訳古典テキストの普及と1580年代の英詩・英国演劇
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22520232
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Research Institution | Ochanomizu University |
Principal Investigator |
清水 徹郎 お茶の水女子大学, 大学院人間文化創成科学研究科, 准教授 (60235653)
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Project Period (FY) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 英米文学 / 演劇 / ギリシア詩 / 印刷本 / Marlowe / 古典受容 |
Research Abstract |
1)ギリシア叙事詩・牧歌詩に見られる祝祭的イメージの初期近代英国文化における受容、2)1580年代英国大学での小型印刷本の流通、3)1570年代~90年代スイスの出版事情とギリシア詩テキスト編纂過程におけるジュネーヴ・アカデミー教授F. PortusやI. Casaubonの関与、の3点を中心に研究を進めた。1)については、Homeros、Theokritos、Mousaiosなどに見られる祝祭・婚姻のイメージから出発して、Marlowe他における手法的発展の跡をたどり、英国宗教改革後期の偶像恐怖(iconophobia)との関係で論考した。平成23年度から継続するこの論考の成果を、論文「愛の儀式を欠く-マーロウ、シェイクスピアと偶像恐怖の時代のドラマツルギー」(『シェイクスピアと演劇文化』所収)として発表した。2)3)については、Philip GaskellやJean-Francois Gilmontらの書誌学的研究を応用しつつ文献調査を進め、その成果を、第51回シェイクスピア学会で口頭発表するとともに、論文 “Making ‘blind Homer sing to me’: 16th-Century Student Editions of Greek Poems and Marlowe’s Art of Imitation”として公表した。3)は継続調査中で、PortusのHomerosラテン語訳の英国詩人への影響、Casaubonの注解付きTheokritosテキストおよびMousaios Grammatikosについての論考のMarlowe他英国詩人への影響の問題を考究している。この中間段階の研究成果の一部分を、平成25年6月のThe 7th International Marlowe Conference (Staunton, VA) で口頭発表する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
16世紀後半のスイス(とくにジュネーヴ)にける学生向け書籍の編纂出版事情および1580年代の英国大学における学生の書籍保有の状況については、Philip GaskellやJean-Francois Gilmontの研究を参考に調査を進め、かなりのことが分かってきた。また祝祭的イメージなどの点でのギリシア詩から英詩・演劇への影響についての論考も、論文「愛の儀式を欠く-マーロウ、シェイクスピアと偶像恐怖の時代のドラマツルギー」として一定の成果を得ることができた。またその一方で、PortusやCasaubonらの貢献が重要であったことが調査の過程で明らかになってきたので、それら古典学者による著作、編纂テキスト、翻訳などを英国詩人のテキストと細かく突き合わせて検証するなど、当初の計画にはなかった新たな作業の必要性も出てきた。以上の状況を総合的に判断して、研究課題はおおむね順調に進展しているものと自己評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
大筋においては当初の研究計画にもとづいて本研究計画を推進する。 Franciscus Portus, Isaac Casaubon, Michael Neanderなど宗教改革期のプロテスタント系人文主義者たちが編纂・翻訳したテキストと16世紀末英国詩人たちのテキストとの関係については、当初の計画以上に検証する価値があることがわかってきたので、その方面の文献のテキスト分析に新たに多くの時間をかける方向で修正しつつ計画を遂行する。また今まですでに分析を行ってきたMarlowe、Shakespeare、Spenserのテキスト以外に、George Chapman、Ben Jonsonなどのテキストにも調査対象を広げてより包括的な知見の獲得を目指す計画である。以上が今後の推進方策である。
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