2012 Fiscal Year Annual Research Report
英国18世紀ピクチャレスクの森林描写における自然観
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22520245
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Research Institution | Wakayama University |
Principal Investigator |
今村 隆男 和歌山大学, 教育学部, 教授 (90193680)
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Project Period (FY) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 庭園論 / 自然観 / ピクチャレスク / 外来種 / イギリス / 旅行記 / 美学 |
Research Abstract |
平成24年度は、ピクチャレスクの成熟期と位置づけている1790年代の文献を中心に解読した。この時期には、フランス革命の進展を背景に、風景描写に政治的情勢を始めとした他の様々な要素が影響したと想定し、分析を進めた。本年度の具体的な研究対象の文献は、この時代の著作の中で自然観の変遷を知る上で最も重要であると考えられるUvedale PriceとR.P. Knightの庭園論が中心になったが、そのほかにKnightの論敵であったWilliam Marshallの農業論なども併せて考察した。それに先立って、前年度までに読む予定であったが研究時間に余裕がないため未研究であった、ギルピンの湖水地方への旅行記についての論文を10月に書き上げて年度末に刊行することができた。一方、この時代の著作に大きな影響を与えたと思われるE. Burkeらの政治論などには研究を進める時間的余裕がなかったのが、反省点である。 研究開始からこれまでの文献分析において、風景描写や自然描写に表象的な表現を持ち込むという方向性はピクチャレスクの時代を通しても消える事が無かったということの他に、各々の政治的な立場だけではなく社会的な立場もが彼らの主張に大きな影響を及ぼしていることが証明できた。さらに、立場を相反する著者どうしの主張は互いに応答、或いは互いに対する批判の形を取っていて、そこには複雑な人間関係が影を落としており、それゆえ、庭園論にせよ森林論にせよ、そのまま額面通には受け取るべきではなく、そのことが当該の時代の環境観・自然観を解釈する事を難しくしていることが明らかになったことも、研究の成果の一つである。それゆえ、外来種の植物の導入に対する反応にしても、以上のような副次的な要素も織り込みながら自然観は進展していったのだということを踏まえながら、具体的な文献の内容に沿って考察を進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「研究実績の概要」に記したように、当初の計画した予定に沿って研究が進められているので、「おおむね順調」であると判断している。昨年度と同様に、研究の進展に応じて、時代区分や考察の対象となる文献について当初の計画からは少し変更をすることになったが、これも計画段階で想定されたことである。 森林描写が見出せる文献を比較・検討しながら読み込むことで自然観の移り変わりを検証することを研究手法の基本と考えていたが、樹木以外の植物や建築、庭園の場合はその構成なども含めて、総合的に風景描写を考察する必要があることに気づくことになり、「森林」だけに限定するのは現実的ではないと現在は考えている。それゆえ、研究対象の範囲の特定が難しくなって取捨選択により注意を要するようになったため、総合的な達成度に対する評価はまだ難しく、現時点では「おおむね」順当に進んでいるという判断にとどめておきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
研究開始以降の4年間に入手した資料はかなりの程度の数のなるので、最終の平成25年度は、これまでに読み残した資料全般、及び、この最終年に新たに入手した資料について解読、検証する予定である。最終年であるので、限られた時間の中で問題点の本質がまとめられるように、資料に関してはより取捨選択を慎重に行いたい。その後、4年間の研究によって得られた成果を一つの論考になるようにまとめる予定である。その際、歴史を重視した批評と環境批評などの理論書の内容を再度確認し、それらを踏まえながら最後の考察を進めたい。そして、今回の研究修了の次年度(平成26年度)には研究成果を出版することが可能となるような形に、整理をしていきたいと考えている。
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