2012 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
22520467
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Research Institution | Nara Sangyo University |
Principal Investigator |
桑原 祐子 奈良産業大学, 情報学部, 准教授 (90423243)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中川 ゆかり 羽衣国際大学, 人間生活学部, 教授 (30168877)
渡辺 晃宏 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所, その他部局等, その他 (30212319)
黒田 洋子 奈良女子大学, 学内共同利用施設等, 研究員 (70566322)
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Project Period (FY) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 国語学 / 正倉院文書 / 訓読 / 言語生活 |
Research Abstract |
本研究の目的は、正倉院文書に代表される実用の言語生活の中に、後世の日本語表記システムが成立していく契機があることを実証的に解明することである。そのために、正倉院文書の中に散見する下級官人や在野の技術者・非官人に光を当て、彼らの言語生活を記述した。 桑原祐子は、「正倉院文書の『堪』と『勘』―古代下級官人 爪工家麻呂の学習―」において、同一人物の作成した文書・帳簿を選別し、特定の人物の置かれた状況・仕事内容を明らかにして、役人の基本的な語彙をどのようにして習得したのかということを明らかにした。「正倉院文書の『早速』―和製漢語のうまれる場面―」では、類義の副詞「早・速・急・火急」と比較対照させることによって、どのような場面で誰に対して、どのような事情がある時に「早速」を使用するのかということを分析し、和製漢語がどのような場面で生まれるのかという、言葉の発生のプロセスを明らかにした。 中川ゆかりは、論文「奈良時代、下級官人が文章を書くとき―風土記中の引用の『者』と、語順の不必要な倒置をめぐって(下)」において、風土記と正倉院文書の語法についての研究を行った。両者に散見する引用末尾を示す「者」の用法や、語順を不必要に倒置する現象に注目し、漢籍などとの比較検討をふまえて、下級官人等の筆遣いを明らかにした。 黒田洋子は、「言葉を綴った人々 ― 丸部足人の場合 ―」で、さらにその周縁部に位置する在野の非官人が書いた文書を正倉院文書の中から特定し、その人物が書き綴った文書等の表現や文書様式の実態を分析した。また彼らの活動の背景にあった官司の状況を明らかにしたうえで、在野の人物が下級官人として律令官司の活動に取り込まれていく過程を解明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
正倉院文書中の下級官人・在野の技術者・非官人に光を当て、彼らの言語生活を記述することが、本研究の基礎研究である。桑原祐子・黒田洋子・中川ゆかり、以上3名による4本の論文執筆によって、下級官人・在野の技術者・非官人等の言語生活の実態の記述をおこなった。その結果、下級官人の学習の実態・彼らが頻繁に使用する和製漢語の生成過程・上代日本語の語法の特質などを明らかにすることができた。加えて、文書に綴られた言葉遣いや表現の分析によって、在野の人物が下級官人として律令官司の活動に取り込まれていく過程をも明らかにした。
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Strategy for Future Research Activity |
1 これまでの研究をさらに拡大し、多くの文書を書き残した官人の言語生活をできるだ け多く記述すること。 2 文書が作成される場面・作成された時の状況を、できる限り明らかにすること。 3 文書をやり取りする官人たちの人間関係を、実証的に明らかにすること。 以上の3点を念頭に置き、日本語をどのように記録し、表現したのかということを解明するための具体的な研究成果を報告書として纏める。
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Research Products
(4 results)