2010 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
22520741
|
Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
梶川 伸一 金沢大学, 歴史言語文化学系, 教授 (50194733)
|
Keywords | ネップ / レーニン時代 / チェー・カー / 大飢饉 / 教会貴重品 / 反宗教キャンペーン |
Research Abstract |
拙訳『ソヴェト=ロシアにおける赤色テロル』の解説の中で、チェー・カー機関を通して民衆運動の抑圧手段として「赤色テロル」が適用されたのが、レーニン政治支配下の常套手段であることを簡潔に例証した。そのもっとも具体的な適用が、飢餓民救済の名による教会貴重品収用キャンペーンで認められ、これに関わる資料をモスクワ資料館で精力的に収集した。 21年秋から22年初頭にかけては、通説によればネップ体制が本格的に樹立し、確定されて時期といわれているが、アーカイヴにあるチェー・カー資料によれば、飢饉による食糧事情の悪化、さらに紙幣不足による食糧生産物に顕著な物価高騰と労働者賃金の遅配は、勤労者の生活条件を悪化させ、各地の工場で労働者の欠勤やストが頻出し、また、農村では飢饉が次第に強まり、人肉食があらゆる地方で記録されるような、きわめて騒然とした政治、経済情勢であった。これが3月から本格化する反宗教キャンペーンの背景である。このような諸問題を一気に解決する手段が、教会貴重品の没収である。なぜなら、1)貴金属により国外で飢餓民援助用の食糧を買い付ける、2)紙幣不足、またはインフレを克服するために通貨改革を行う必要があり、そのためには貴金属を担保とする新通貨を発行1しなければならない、からである。特に後者の問題は、党中央委政治局会議に上程されるまでに、秘密の特別専門委員会で先決されていたのが、この時期の政治決定過程で特徴的であった。 教会貴重品収用キャンペーンは、飢餓民救済を目的にせず、反宗教的な政治的意味と、ネップ体制の安定と強化という経済的課題を当初から持っていたことを明らかにした。
|
Research Products
(3 results)