2010 Fiscal Year Annual Research Report
西欧中世における手写本テクストの受容・生成プロセスに関する比較史的研究
Project/Area Number |
22520752
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
岩波 敦子 慶應義塾大学, 理工学部, 教授 (60286648)
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Keywords | 中世ヨーロッパ / 天文学 / 手写本 |
Research Abstract |
平成22年度は、ヨーロッパの図書館が公開している電子データベースを基に、1)本研究課題の研究対象であるSt. Gallen, Reichenau 両修道院の手写本データを調査・整理し、基盤となる手写本データベースの雛形を構築、2) 9世紀から11世紀にかけての学知の布置を手写本の所蔵調査から概観したうえで、3) 当時最高水準の天文知を北西ヨーロッパに伝えた二人の人物、のちに教皇シルヴェステル2世となるオーリャックのゲルベルトゥス、ライヒェナウ修道院長ヘルマヌスを軸に、10世紀から11世紀にかけてRipoll、Fleuy両修道院を学知の結節点としてイベリア半島から北西ヨーロッパへと伝播した天文知の受容を手写本の継受から分析した。 平成22年度の研究を通じて、中世ヨーロッパの学識者たちが暦法という極めて実務的な知識に不可欠な天文知の獲得を目指し、より正確な天体観測のためにアラビアから天文学の知識とりわけ天体観測儀アストロラーベの使用に関する天文学テクストを積極的に受容していた姿が浮き彫りになった。天文学写本がヨーロッパに広範囲に伝播していた事実は、12世紀ルネサンス以前の学知が決して思弁的思索のみを目的としていたのではなく、実用面を重視した教育が行われていたことをも示唆している。 本年度中には本成果を発表することができなかったが、2011年2月ミュンヘン国立図書館における資料調査を踏まえて、現在論文「ライヒェナウのヘルマヌスと中世ヨーロッパの天文学写本の伝播」を準備、平成23年度中に発表する予定である。
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