2012 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
22520776
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Research Institution | Hanazono University |
Principal Investigator |
高橋 克壽 花園大学, 文学部, 教授 (50226825)
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Project Period (FY) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 古墳 / 対外交渉 / 向山1号墳 / 若狭地域 / 考古学 |
Research Abstract |
若狭地域の古墳時代における対外交渉をもっとも雄弁に語ってくれる若狭町向山1号墳について、未報告の刀剣槍類、それに鉄鏃を加えた鉄製武器、3領の短甲や盾隅金具などの武具、さらに刀子を代表とする工具その他の主要な鉄製品の実測を進めた。なかでも、短甲については、SDデジタル計測成果をベースにX線と実見の所見を加えて図化するという精緻な作業となり、それだけ時間を要した。これらの図化の過程で詳細な観察が個々の遺物に対して実施され、類例のまれな鉄矛が含まれていることに気づくなど、いくつかの新事実が明らかになった。これらの副葬品類の出土位置の復元もあわせおこなっている。須恵器などその他の出土品については報告用の写真撮影をすませた。 向山1号墳に関連して、これまでに本研究で調査を進めてきた糠塚古墳や小浜市丸山城跡古墳などの関連古墳についても、出土埴輪を中心に整理を進め、写真撮影や実測などの作業をおこなった。これらはいずれも向山1号墳に後続する時期のものである。 いっぽう、昨年度の本研究で墳丘を確認した脇袋丸山塚古墳に対しては、その基礎的情報を得ることを目的に部分的ながら発掘調査を試みた。それにより、この古墳が若狭地方で確認された唯一の大型帆立貝式古墳であること、そして前方部に被覆粘土で鉄鏃を封じ込めた特殊な遺構が存在することが判明した。この脇袋丸山塚古墳は、鉄鏃や埴輪から、向山1号墳とほぼ同時期か直続の時期に築かれた古墳であることがわかった。 なお、かねてより向山1号墳との関連が指摘されてきた南北山古墳は、踏査の結果、前方後円墳ではないと判断された。 本研究に関する発表に関しては、丸山城跡古墳の前方部石室について、その地域的特色や朝鮮半島との関連を論じた論文「若狭における横穴式石室の受容と展開」を岡内三眞編『技術と交流の考古学』(2013年)で発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
発掘調査からほぼ四半世紀がすぎて、その間の情報の逸失が危ぶまれていたが、向山1号墳の副葬品については、数多くの刀剣槍類をほじめ、盾隅金具や馬具かと思われる鉄製品、それに鉄鏃など主要なものについて、観察と実測をほぼ済ませることができ、失われたものがほとんどないことが確認された。しかし、保管場所が現地に離れてあり、そこには撮影機材が備わっていないこと、そして細部写真が必要な部位が確定していないことなどから、写真撮影は次年度の作業とせざるを得なくなった。 また、懸案であった石室や武器埋納坑における副葬品類の出土状況の復元については、図面の判読だけでは不十分であり、35ミリフィルムの白黒写真やスライドなどをも駆使しながら、現物との同定作業を進めなければならないという状況であった。そこで、大量にあった未現像のネガからベタ焼きを作成するなどして、あらゆる画像データをそろえて照合作業を行った。これにより、副葬品出土状況が詳細に復元できたことは、重要古墳の基礎データの提示という本研究の一側面においてもたいへん大きな成果であった。この情報はまた初期横穴式石室の追葬の議論の前提となるものでもある。 いっぽう、向山1号墳の位置づけをはかるために24年度までに関連調査を実施した若狭地域の諸古墳の成果も、それぞれに重要であることが明らかで、その整理と分析にも時間をかなり費やした。糠塚古墳や丸山城跡古墳については、すでに調査図面の製図や出土遺物の復元、図化、写真撮影を済ませてあるが、分析は次年度の課題となっている。 こうした24年度の作業のために、本計画当初予定していた関連資料、たとえば、十善の森古墳や丸山塚古墳の豊富な舶載副葬品や三生野遺跡から出土した半島系土器などへの分析が遅れている。向山1号墳の意義を若狭の地域史の中で的確に述べるために、次年度でそれらを総合した議論を行う。
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Strategy for Future Research Activity |
向山1号墳の出土遺物のうち、副葬品の中で未実測のものや検討の不十分なものに対して実測と観察を完了させるとともに、すべての保存処理後の遺物写真撮影を行うことが第一に必要である。それらの出土品の中でも、刀剣類は、畿内をはじめ他地域の同等に豊富な保有状況を示す古墳との比較を通して、向山1号墳の特殊性を浮かび上がらせることが期待できる資料である。同様に、3領出土した短甲についてもその意義やいずれも型式を異にることなどの諸課題を検討しなければならない。これにも、5世紀中ごろの類似資料との対比が必要である。 向山1号墳は、上記の倭系遺物にもまして、金製耳飾や特殊な鉄矛、馬具とみられる部品や棺の付属品か石室壁面装具かとみられる特殊な鉄製品など、5世紀中ごろの古墳としてはきわめて特殊な舶載系の副葬品を有していることがわかった。これらについても個別に検討し、初期横穴式石室への分析とあわせて、その被葬者像、築造の背景などを探っていきたい。これには東海地方との関連がうかがわれる埴輪の評価も影響してこよう。 最終年度である次年度は、以上の向山1号墳の発掘調査報告とそれに基づく研究に、本研究で着実に進めてきた若狭地域の未調査前方後円墳群の調査成果を加えて、報告書をまとめることを第一の目標とする。次に、十善の森古墳や丸山塚古墳の特色ある半島系副葬品の分析、そして、陶質土器などによる渡来系集団の追及などを合わせ行い、若狭地域の古墳時代史を再構成する。そして、若狭地域と大和政権との関係を対外交渉史を中心に時系列的に整理し、若狭地域という特定の地域がはたした大きな役割を古墳時代の社会変化の中で考えたい。これにより地域の対外交渉力に依拠した当時の大和政権の外交の実態を解き明かすことにつながり、それは古墳時代における大和政権の権力の相対的性格を浮き彫りにするものとなるであろう。
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Research Products
(2 results)