Research Abstract |
平成23年度の研究では,前年度に引き続き,香川県弁護士会における付添人ケース研究会等への参加を通して,再非行防止に向けて,少年の非行事実を適切に理解することにより,少年の課題克服の可能性を明らかにすることが重要であることが明らかとなった。今後は,こうしたケース理解を,非行少年への試験観察,そして,その後の処遇選択,さらには,処遇そのもののあり方にフィードバックしていく理論的枠組みの構築が課題となる。 また,日本犯罪社会学会第38回大会における報告に向け取り組んだ,家裁調査官へのアンケートを契機に,家裁調査官を取り巻く状況の変化が,少年司法における科学主義を空洞化させ,ひいては,非行少年の再非行防止にとって悪影響を及ぼしかねないことが明らかとなった。こうした科学主義をめぐる諸課題とそれへの取り組みのあり方については,従来取り組んできた研究と合わせてまとめ,『少年司法における科学主義』として出版できた。 次に,近時,エビデンスベイスドポリシーを紹介する論者が個々の事例研究が再非行防止に関する意義が乏しいと論難していることから,こうした議論動向についても検討を加えるために,これに関する資料収集とその検討を通して,その理論においても,再犯の定義が共有されている訳ではないなど,再犯防止に向けた処遇効果の内容が必ずしも一義的ではなく,何を以て再犯防止に向けた処遇の効果があったと判断すべきかについて,規範的な方向性を定めることが重要な課題であり,事例研究の意義が必ずしも否定されるわけではないことも明らかとなった。 そして,日本で開催された第16回国際犯罪学会やドイツで開催された第12回ドイツ犯罪学学会に参加したことを通して,各国の再犯研究においても,再犯の定義が一義的ではなく,また,再犯の有無を追跡する期間も必ずしも明確な根拠がなく,むしろ恣意的に設定されていることなどが確認できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
家裁によって採られた各種処遇が持つ再非行防止効果を検討する上で,個別の事例研究が持つ意義を否定するエビデンス・ベイスト・ポリシーの研究動向もフォローせざるをえなくなったが,その再非行防止効果研究の持つ意義と限界についての研究も進み,再非行院止に向けた事例研究の意義と方法についても当初の計画通りに進展しているため。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)文献の整理・検討・まとめ エビデンスベイスドポリシーに関する内外の文献の収集を行うとともに,これまでに収集した処遇の効果および事例研究に関する内外の文献の整理を進め,これらの文献に検討を加え,それらから明らかになっている研究の到達点のまとめを行う。 (2)海外調査 処遇効果及び事例研究に関するドイツ語文献に遺漏がないよう,とりわけドイツにおける社会内処遇の効果に関する資料収集を行うとともに,資料では明らかではない点を直接質問するためにドイツの社会内処遇の効果を検討した研究者へのインタビューも行う。 (3)事例研究会への参加 これまでに重ねてきた事例研究会への参加を継続し,事例研究のフィードバックに向けた仮説の検証を行うとともに,これまでの成果を発表し,参加者と討議を行い,これまでの研究のまとめに遺漏がないようにする。 (4)研究のまとめ 以上の取り組みを,研究成果としてまとめ,可能な限り公表する。
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