2012 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
22540299
|
Research Institution | Kinki University |
Principal Investigator |
石橋 明浩 近畿大学, 理工学部, 准教授 (10469877)
|
Project Period (FY) |
2010-04-01 – 2015-03-31
|
Keywords | 相対論 / 超弦理論 / 宇宙論 / 宇宙物理 / 素粒子物理 / 数理物理 |
Research Abstract |
本年度は、当該研究テーマの高次元ブラックホールについて、高次元理論から次元還元で得られる4次元ブラックホールの安定性・不安定性の観点から研究を行った。4次元有効理論には、コンパクト化の自由度により様々な超軽質量ボソン場が現れると期待される。このいわゆる“アクシオン場”が回転ブラックホール時空で引き起こすスーパーラジアンス不安定性を調べるために、摂動方程式を簡単化するスロー回転近似の方法を適用し、解析的および数値的に不安定性について調べた。特に超軽量ボソン場として有質量ベクトル場によるカー・ブラックホール時空の不安定性を初めて示した。さらに、観測された超巨大ブラックホールによる光子の質量上限の導出に応用し、現在のところ最も強い制限を与えることができた。以上の研究成果は、3つの論文にまとめ、Physical Review 誌に発表した。"Black hole bombs and photon mass bounds" Physical Review Letters 109, 131102 (2012), "Perturbations of slowly rotating black holes: massive vector fields in the Kerr metric" Physical Review D86, 104017 (2012), "Superradiant instabilities in astrophysical systems" Physical Review D87, 043513 (2013). また、重力とゲージ理論対応の具体例として重要な、漸近反ドジッター時空が一般的に不安定であるかどうかの懸案について、不安定性の結果起こりうる時空特異点の存在について、解析的な証明を与え、成果を Physical Review 誌に発表した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
高次元ブラックホールの安定・不安定性解析については、関連する4次元有効理論における回転ブラックホールの安定・不安定性問題の文脈で研究を進展させることができた。特に、有質量ベクトル場の引き起こす増幅反射不安定性については、回転ブラックホール時空上での基礎方程式の複雑さ(特に変数分離に成功していない事実)により、これまで研究がほとんどされてこなかったが、新たにスロー回転近似を採用することで、基礎方程式を比較的単純な方程式系に帰着させることに成功し、準解析的および数値計算手法を用いて不安定性解析を進めることが世界で初めてできた。さらに、現実の宇宙の巨大ブラックホール観測により光子の質量上限を与えるという応用も見出すことができた。また、高次元ブラックホール研究の直接的動機である重力・ゲージ理論対応で要となる反ドジッター時空の不安定性について、ある種の特異点定理を証明し、どのような条件のもとで漸近的反ドジッター時空が不安定になりうるかについて理解を得ることができた。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後は、昨年度開発したスロー回転近似を用いた有質量ベクトル場の引き起こす回転ブラックホールの不安定性の研究を、有質量テンソル場による増幅反射不安定性解析へと発展させる。有質量テンソル場に拡張することで、高次元重力理論とも関係する様々な4次元有効理論、修正重力理論におけるブラックホールの安定性について理解が得られると期待できる。 また、高次元理論におけるブラックホール時空においても、ある特定の型の重力摂動は、4次元時空でおこなった有質量ベクトル場の方程式と類似の構造をした方程式系に従う点に着目し、スロー回転近似を用いた不安定性解析の手法を応用して、直接、高次元回転ブラックホールの安定性解析を行う。4次元有質量ベクトル場の場合と比べても、扱う数式はより複雑になるため、数値計算により頼ることになると予想される。数値計算の専門家との共同研究も行い、解析的手法と数値的手法の両方を用いて研究を遂行する。
|